日常実用品のデザインは著作物ではないの?

 小説や絵画のような文化・芸術の創作物は著作物として著作権が認められているということは、今までどこかで見聞きしたことがあるのではないでしょうか。ところで、普段購入している飲料やカバン、机といった日常用品に施されているデザインも、著作物として認められるかについて、皆さんはどのように考えますか?

 実は、これは案外難しい問題となります。ごく簡単にいうと、普段販売されている日常用品の外見デザインが通常、意匠として認められることによって意匠法の保護を受けることになっており、著作物にもなりうるかという疑問が生じません。他方で、まるで美術品のようなデザインを施し精巧に製造・販売されていて一度見ると誰でも思わず使いたくなるというような実用品もあるでしょう。そのため、美術鑑賞性を有する実用品のデザイン(応用美術)は意匠だけではなく、美術の著作物でもあるのではないかという疑問が提起されてきたのです。

 デザインに美的創作性を感じ取れるようなら、著作物として認めても良いのではないかと思われるかもしれません。しかし、実際に著作物として認めるか認めないかによって、法制度上の取り扱いが大きく変わってきます。例えば、著作物となると、権利の保護期間が意匠権より遥かに長いだけでなく、権利の登録手続きを行わなくても著作権が発生します。したがって、日常の実用品も、著作物として著作権を認められると、商売ライバル等に対して不意打ち的な権利主張・行使ができるようになります。

 このような理由から、「応用美術は、実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とするものであるから、美的特性を備えるとともに、当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり、その表現については、同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については、このような制約が課されることから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され、したがって、応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、上記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。」とされています(知財高裁平成28年12月21日判決、判例時報2340号88頁)。即ち、大量に生産・販売されている実用品のデザインは、たとえ美的特性を備えていても、著作物とまで認められるハードルがとても高いということです。

 実際に著作物の該当性を争われた訴訟(競争ライバルの製品デザインが自社製品の著作権を侵害したとする等の訴え)を見ても、認められなかったケースが多いです。

 ※各訴訟で争われた実物の画像を用いて判決順で紹介します。

黒烏龍茶茶のパッケージデザインが著作物と認められなかったケース

(東京地裁平成20年12月26日判決)

 

幼児用椅子のデザインが著作物として認められたケース

知財高裁平成27年4月14日判決判例時報2267号91頁) 

 

幼児用トレーニング箸のデザインが著作物と認められなかったケース

(知財高裁平成28年10月13日判決)


ゴルフクラブのシャフトデザインが著作物と認められなかったケース

(知財高裁平成28年12月21日判決、判例時報2340号88頁)



タコ型滑り台のデザインが著作物と認められなかったケース

(知財高裁令和3年12月8日判決)

 応用美術と著作物は紙一重のような関係にありますが、知的財産に関わるものであるだけに、両者を丸取りしたいのなら、最初から知的に商品企画を練り上げなければならないようです。 

 

 

 

 

2022年08月09日