権利の保護にも「出自」が関係する?

 前回と関連性のあるお話となります。知的財産は、どのような権利によってどのように保護されるかは、その知的財産物の「出自」に大きく影響されます。物にも「出自」がある?不思議にも思う方もいるでしょう。この「出自」について説明してみましょう。

 

 ファービー(英語表記:Furby)というおもちゃを、皆さんは知っていますか?アメリカのTiger Electronics社が1998年に発売したペットロボットです。買主(飼い主?)の言葉を真似しておもちゃらしくコミュニケーションができるので、販売開始直後から、爆発的に流行しました。そのため、当時は多数の類似品も出回っていました。
そこへ、大阪市平野区に本店を置く玩具販売事業者が、ファービーの容貌姿態を模した「ポーピィ」と称するおもちゃを販売したところ、Tiger Electronics社のファービーのデザイン形態の著作権を侵害したとして、公訴を提起されました。たしかに、両商品はかなり似ていて、日本におけるファービーを「美術の著作物」として認められれば、著作権侵害が成立することになります。

 

 しかし、地裁と控訴審の高裁ともに、ファービーの著作物性を認めませんでした。特徴のある容貌を持つファービーは、なぜ著作物として認められなかったでしょうか?高裁判決に次のような説示がありました。「『ファービー』の制作由来については、……使用する者にあたかもペットを飼育しているかのような楽しみを感じさせる電子玩具の製作を意図したものであり」「『ファービー』のデザイン形態は、当初から工業的に大量生産される電子玩具のデザインとして創作されたものである」(仙台高裁平成14年7月9日判決判タ1110号248頁)。
 前記の判示から、裁判所がファービーの「出自」をかなり重視していたことが窺えます。言い換えますと、仮に「ファービー」というキャラクターの漫画作品が先に存在し、そのキャラクターに基づいて、おもちゃが作られたという「出自」でしたら、ファービーの著作物性が認められただろうと思われます。
 ラッピング用の包装紙の模様も、権利保護の「出自」を説明する好例です。皆さんの推測するように、包装紙はもともと、ラッピング用の材料として企画・量産されたものですので、基本的に著作物として認められません。

 

 ところが、三越の包装紙の模様は、最初から美術品として猪熊弦一郎画伯によってデザインされた画でしたので、著作物として生まれ、著作権が認められています。「華ひらく」という名前まで付けられています。

                     (猪熊弦一郎画伯による原画)

                                   *三越ウェブサイトより引用 

 このように、法律の世界でも「出自」によって受けられる権利の保護は大きく変わってくるものですね。勿論、著作物として認められないからといって権利の保護を受けられないというわけではありません。意匠として登録し意匠権によって保護されるという道もあります。
 知的財産に関わるものだけに、ブランド戦略も知的に立てなければなりませんね。

 




2022年09月19日