世界中で、すっかりお馴染みのスマートフォンブランドとなった「iPhone」という商標のこと、知らない人はほとんどいないのではないでしょうか。ところで、Apple社が、日本国内において「iPhone」に対する商標権を持っておらず、「iPhone」が同社の商標ではないということも知っているでしょうか。
一体、「iPhone」は誰の商標なのか、さぞかし不思議に思う方も多いでしょう。実は、「アイホン」という住宅や施設向け通話システムを製造販売する日本の会社が、日本国内における「iPhone」の真の商標権者です。
※前記画像アイホン社のウェブページより引用。
日本の商標制度においては「特許庁に対し先に商標登録の出願手続を行った者」が優先的に保護される「先願主義」が採用されています。商標の出願・登録情報によると、アイホン社は、Apple社のスマートフォン販売前の2006年9月
19日に既に次の「iPhone」商標を特許に出願していたのです。使用区分は「携帯電話,携帯電話の部品及び附属品」等に指定されており、ちょうどApple社のスマートフォンと重なってしまいました。
※実際の登録情報
どんなに先進的なスマートフォンでも、「iPhone」として販売できないと、Apple社のビジネス戦略にとって大きな打撃となることから、日本のアイホン社と協議の結果、同社に毎年商標のライセンス使用料を支払う代わりに、使わせてもらうということに決着しました。毎年のライセンス使用料の金額は公表されていませんが、1.5億円程度とも言われています。アイホンにとっては、空から降ってきたようななんとも美味しい話でしょう。
他方で、Apple社は自社製品の商標を巡って、日本以外でも多くのトラブルに巻き込まれていて、必ずしもすべて日本企業とのように平和的に解決されていたわけではありません。例えば、「iPad」という商標を巡って、中国IT機器メーカー唯冠科技から、差止訴訟を起こされ、結局約6000万ドルの和解金を支払い、ようやく中国市場でのiPad製品販売に漕ぎ付けたのです。
このように、商標は、ビジネスそのものにもなりえます。そこで、これに付け込んで、自分では使うつもりのない商標を大量に出願し、Apple社のような「いいカモ」を待ち伏せして一儲けしようとする人たちが世界中に現れています。勿論、日本にも、商標を商品のように売買しようとする者らがいます。
例えば、元弁理士が設立したベストライセンスという会社の年間商品出願数は、多い時で全国の年間商標出願数の1割も占めていて、特許庁がウェブページで注意喚起を掲載しなければならない事態になりました。実際に出願された商標というと、その時その時に流行している、或いは流行しそうなキーワードがほぼすべて網羅されていました。例えば、「リニア中央新幹線」「民進党」「STAP細胞はあります」「じぇじぇ」等々。
ところで、実際に出願商品を登録させるためには、出願手数料を支払わなければならないし、登録要件も充たさなければなりません。使うつもりもないのに商標を大量出願したところで、登録が簡単に認められるようなはずもないでしょう。かえって、出願手数料や労力の無駄遣いとなってしまいます。
商標を餌に「いいカモ」を待ち伏せるつもりの狩り人が、自分も商標に釣られた「カモ」になっていませんか。