線状の商標にも超えてはいけない一線があるの?

 世界中の商標というと、デザイン等が明らかに異なっている分かり易いものもあれば、なんとなく似たようなものもあり、まるで千差万別です。
 adidas社というと、その名前、ブランドマークである3本の線も恐らく知らない人はいないと思われます。日本国内で登録されいているadidasの商標からいくつか列挙しておきましょう。


商標登録番号第1423465号 商標登録番号第2704525号 商標登録番号第4614579号
商標登録番号第4679322号 商標登録番号第4679323号 商標登録番号第5120252号

 

 まさにありとあらゆる三本の線を商標として登録しようとする強い意思の表れといえそうです。シンプルな模様構成のため、似たような商標も現れやすく、線の模様に拘り過ぎると、かえって商標制度上の問題を引き起こし、競争相手の事業活動を妨げることもあります。

 例えば、THOM BROWNEというアメリカニューヨーク発祥の有名なファッションブランドは、adidasと同様に三本の線で構成された模様をシンボルマークとしていましたが、2007年にadidas社から警告を受けたため、衝突を避けるために4本線のデザインに変更したというエピソードがあります。両者の確執は一見、落着したかのように見えましたが、THOM BROWNEというブランドの成長につれ、苛立ちを隠せなくなったadidas社が、とうとう商標権侵害を理由に、約10億円の損害賠償訴訟を起こしました。 

   

(例示としてTHOM BROWNEのウェブページより引用した商品画像)

 確かに本数に一本のみの違いで、似ているようですが、「THOM BROWNE」という商標表記と併せて確認することができれば、必ずしもadidasと混同されるとはいえなさそうです。実際も一審の評決において、陪審員らがadidasの商標権を侵害しないという結論に至りました。

 他方で、adidasの三本の線よりも一本少ないにもかかわらず、訴えられたケースもありました。しかも、この事件は日本の会社で、日本国内で起きた訴訟でした。丸紅フットウェアという履物の輸出入及び販売を行う会社が、2017年に下図のような2本の線で構成された商標を出願し、翌年登録されました。  

商標登録番号第6016240号

 これにadidas社が登録の取消請求の申立を行いましたが、特許庁は「本件商標は、左方向にやや傾けた、2本の細長い平行四辺形様図形から構成されている」等から混同を生ずるおそれが低いとして、同社の主張を認めませんでした(2019年7月12日)。その後、同社が商標未使用を理由に再び取消を請求しましたが、特許庁はそれも認めませんでした(2022年7月8日)。

 3本の線で構成される商標を保有しているだけに、線の模様を取り入れようとする競争者に対するadidasの強い警戒感も並々ならぬものです。しかし、4本の線でも2本の線でも結果的に識別の機能性が認められていますので、1本の線の違いに歯がゆい思いをしているadidasにとって、超えてはいけない一線だったようですね。




2023年01月28日