店舗の外観や内装を模倣してもいい?それともいけない?

 仮に、オーナーとしてレストランを一から設計して経営することになったとしたら、ほとんどの人は、オシャレで雰囲気の良い店作りを目指すのではないでしょうか。そこへ、とてもスタイリッシュなレストランがありましたら、色々と参考にしたくなりませんか?

 

 ところで、他店の商号やマークを真似してしまうと、商標法や不正競争防止法等に違反するおそれがあることはよく知られていますが、他店の概観や内装を真似ることには問題はないでしょうか。
 例えば、吉野家や吉野家のような牛丼店は、看板以外の内外デザインといえば、なんとなくどこか似ているような気がしませんか?しかし、そのうちに見慣れてくると、似ていても気にしなくなります。全国規模で店舗を展開している「ごはんやまいどおおきに(食堂)」は、同業者「めしや食堂」の名称表示等の外観や内装が自社のと酷似し、不正競争防止法2条1項1号・2号の不正競争行為に該当するとして差止請求を求めた訴訟がありました。

(ごはんやまいどおおきに(食堂)東京都東大和食堂店の外観)

 (めしや食堂名古屋市南陽通店の外観)


 裁判所は、「両看板に記載された内容が類似しないことなどにより類似せず、かかる相違点が、控訴人店舗外観及び被控訴人店舗外観の全体の印象、雰囲気等に及ぼす影響はそもそも大きいというべきである。……外装に使用されている色の種類は共通するが、それぞれの色が用いられている箇所は全く異なり、使用されている色やその組み合わせもごくありふれたものであり、……控訴人店舗が黒、白を基調とした古くからある町の食堂を彷彿とさせる素朴な印象を与えるのに対し、被控訴人店舗がより近代的で華やかな印象を与える点で相当の相違が認められ、全体としての印象、雰囲気がかなり異なったものとなっていると認められる。……控訴人は、内装は全体的に木の色で統一され、暖色の照明が用いられるなど、全体的な印象が酷似しているとも主張するが、そのような内装は飲食店の店構えとしてきわめてありふれたことであるから、これをもって控訴人店舗外観と被控訴人店舗外観との類似性を基礎づける事情とすることはできない。」として、原告の請求を棄却しました(大阪高裁平成19年12月4日控訴審判決)。

 似た訴訟ですが、子供衣料品販売事業者の西松屋は、自社店内の商品陳列デザイン(内装)がイオンリテールに無断模倣され、不正競争防止法2条1項1号・2号に該当する不正競争行為として、差止と損害賠償を求めた事件もありました。この訴訟において裁判所は、原告商品陳列デザインは「売場全体に及んでいる原告店舗の特徴に調和し、売場全体のイメージを構成する要素の一つとして認識記憶されるものにとどまると見るのが相当であり、……看板ないしサインマークのような本来的な営業表示(原告における「西松屋」の文字看板や、デザインされた兎のマーク)と同様に捉えて認識記憶するとは認め難いから、……独立して営業表示性を取得するという原告の主張は採用できないといわなければならない。……原告独自の営業方法ないしノウハウの一端が具体化したものとして見るべきものである。」として、西松屋の請求を棄却しました(大阪地裁平成22年12月16日判決)。

 (西松屋陳列デザインのイメージ)

 法的な話はのちほどもう少し具体的に述べますが、このように、商標や著作権の侵害と違い、外観や内装が模倣されたことを理由に競争相手を訴えても、類似性(模倣)が認められないか、又は類似性はあっても商号・マーク(営業表示性)と同等に扱われない等、是認ハードルはかなり高いといえます。そんな中、外観や内装の模倣も不正競争行為に該当しうることを示した初めての判決が出されました。 

 全国展開の「珈琲所コメダ珈琲店」を運営するコメダ社は、自社の外観や内装が、ミノスケ社運営の「マサキ珈琲」に模倣され、不正競争防止法1項1号・2号に該当する不正競争として、模倣使用行為の差止仮処分命令を裁判所に求めました。

(コメダホールデイングス2016年12月27日「仮処分命令の発令に関するお知らせ」と題するプレスリリースに基づくイメージ画像)

(「店舗デザインへの不競法初適用 コメダ珈琲そっくり店舗事件」ビジネス法務 17巻6号89頁(2017)の画像引用。)


 不正競争防止法2条1項1号と2号は、 条文の文言を引用すれば、それぞれ「商品等表示」の混同と冒用行為を規定しています。したがって、両店の外観や内装は非常に近似しているが、しかし「珈琲所コメダ珈琲店」の外観や内装は、称号や看板と同様に、識別の機能を果たす「商品等表示」に該当するということが認められなければ、「マサキ珈琲」に模倣されたとしても、止めさせることはできません。

 では、どのような法的要件を備えていれば、「商品等表示」に該当するでしょうか。裁判所は「〔1〕店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、〔2〕当該外観が特定の事業者によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する営業表示性を獲得し、不競法2条1項1号及び2号にいう『商品等表示』に該当するというべきである。」と判示しました。そして、検討した結果、「珈琲所コメダ珈琲店」の外観等は、前記の要件を充たしたとして、「マサキ珈琲」の違法性を認めたのです(東京地裁平成28年12月19日)。店舗の外観や内装デザインが、「商品等表示」にあたると認められたのは初めてです。

(画像は「『コメダそっくり店』外観使⽤差し⽌め 東京地裁が仮処分決定」日本経済新聞電子版2016年12⽉27⽇記事より引用。)


 因みに、店舗デザインを巡る争いが近年増えてきていることから、2020年4月1日に施行された令和元年改正意匠法においては、建築物の外観や内装のデザインが意匠法による保護の対象に含まれることとなり、外観や内装の意匠登録出願を行い認められると、意匠法でも保護されることになりました。やっと外観や内装でも、より賢く知的に守る道が開かれたと言えます。




2023年02月19日