あのばら売りは違法なの?

 商品のばら売りは、日常生活でもよく見かけます。例えば、駄菓子屋の10円キャンディーやスーパーマーケットの果物等々。最近、メルカリのようなフリーマーケットにおいても、ばら売りが増えてきているようです。偽造商品(海賊商品)でもないから、手に入れた商品をばらで販売しても法的に問題がないと思っている方は多いのではないでしょうか。実は、その商品に関わる権利者の胸三寸によっては、ばらで賢く売っているつもりが、かえって違法性に問われることもあります。例えば、このようなケースが実際にありました。

 


 熊本市内に店舗を構え園芸生物や資材の小売業を営んでいた草葉ナーセリーという会社(被告)は、ガーデニング企業大手のハイポネックスジャパン(原告委)から発売されていた「MAGAMP」というシリーズの容量約22㎏の大袋詰め肥料を、500gや200g等に小分けし透明のビニール小袋に詰め替え包装し直した状態で店頭に並べ、「マグアンプK」等と手書で表記告知しながら割安にばら売りしていました。

ハイポネックスジャパンの登録商標(例) 草葉ナーセリーによって表記された商標

 

(由来に関する前記説明はハイポネックスジャパン社のウェブページより引用)

(業務用肥料のイメージ画像)


 需要者の立場に立つと、ばら売りで小分けしてくれれば、選択肢が増え、より購入しやすくなるというメリットがあり、むしろありがたいことかもしれません。皆さんはどのように考えていますか?
 しかし、ばら売りという販売方法は、「MAGAMP」の商標を保有する元売りのハイポネックスジャパンにとって、ありがた迷惑のことだったようです。同社は、ばら売りの中止を再三求めていましたが、聞き入れられなかったため、不正競争防止法違反と商標法違反を理由に、販売の中止と損害賠償を求める訴訟まで提起したのです。果たして裁判所はハイポネックスジャパンの請求を認めたでしょうか。
不正競争防止法に違反する根拠として、小分けしてばら売りする行為は、需要者に、被告の小分け品が原告の販売する商品ではなく、被告又は第三者の製造販売する商品であるという誤認混同、更には商品の品質・内容等についても誤認を生じさせる、という理由のためでした。しかしながら、被告のばら売り品は原告販売の大袋から小分けしたものであるため割安となり安値で販売される旨を宣伝広告していたし、かつ、そのことを顧客も十分認識していたことから、誤認混同という不正競争防止法違反の原告主張は裁判所に認められませんでした。

 やっぱりばら売りしても問題がないんだなと思いきや、他方で裁判所は商標権の侵害を指摘し一変して、次のように違法性を認めたのです。
「当該商品が真正なものであるか否かを問わず、……その流通の過程で商標権者の許諾を得ずに小分けし小袋に詰め替え再包装し、これを登録商標と同一又は類似の商標を使用して再度流通に置くことは、商標権者が適法に指定商品と結合された状態で転々流通に置いた登録商標を、その流通の中途で当該指定商品から故なく剥奪抹消することにほかならず、商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであって、商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害し、ひいては商品の品質と販売者の信用に関して公衆を欺瞞し、需要者の利益をも害する結果を招来するおそれがあるから、当該商標権の侵害を構成するものといわなければならない。」(平成6年2月24日大阪地裁)。
判旨を分かりやすく言うと、商品の品質と信用を維持するために、流通過程における商標と商品の結合状態(商標による商品の品質保証機能)を保たせることは、商標権者の権利ということです。被告のばら売りは、商品の品質と信用を損ない、商標の品質保証機能を妨げる行為であるため、商標権を侵害したというわけです。

 


 このケースにおける商品は肥料であるということもあって、品質に多少変化があったとしても、商標権の侵害にまでリンクされるほどの理由になるのかという点において、大阪地裁の前記判示はやや理解されにくいところもあるでしょう。そこで、ほかの訴訟と併せて読んでみると、より理解しやすくなると思います。
 例えば、テレビゲーム機内蔵プログラムの改変を巡る訴訟において、被告人が、任天堂の「Wii」及び「Nintendo」商標を付した家庭用テレビゲーム機Wiiについて、Wii専用アプリケーション以外のアプリケーションのインストール及び実行も可能となるように内蔵プログラム等を改造した上で、前記の商標を付したまま、他人に販売したり、譲渡のために所持したりしていたことは、商標法違反とされました。その理由は、「真正品が本来備えていたゲーム機としての機能が大幅に変更されている」ので、「需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれている」ためでした(平成25年1月29日名古屋高裁)。商標による品質保証機能の論理について、肥料よりも、ゲーム機のほうがより分かりやすいといえそうですね。


 実際の取引市場において、ばら売りしたからといって、直ちに法的責任を問われることはありませんが、商標等の権利者から中止の要請があれば、知財と競争に関わる問題だからこそ、油断せず、知的に対応する必要がありそうですね。


2023年04月03日