商標は本来、事業で使用するために出願登録されるものですが、しかし実際に使用するつもりがないのに、出願登録するようなケースもよく見受けられます。その理由の一つは、著名商標をブランドイメージのただ乗りから守るためです。
例えば、よく知られているライオン株式会社が、「LION」(商標登録番号第545999号)を180度反転させると「NO17」と読めることから、類似商品や偽物の商品が出回ることを防ぐ目的として、「LION」の上下を反転させた「NO17」という商標も登録しています(商標登録番号2419294号)。
例えば、1983年に発売されるやいなや、すぐ人気を博したカシオの腕時計「G-SHOCK」という商標を、類似品のただ乗りから守るために、カシオはA-SHOCKからZ-SHOCKまで、先頭のアルファベットを変えた25種類の商標もすべて登録したのです。
商標の登録や維持には当然それなりの費用が必要となりますので、防衛的商標の登録も行うと、その分費用も嵩みます。しかし、これで著名商標は守られると安心できるでしょうか。
実は防衛的商標を登録したとしても、不意を突かれることもあります。
「ばなな」のお話をしましょう。東京のグレープストーンという会社が「東京ばな奈」という登録商標のお菓子を発売していますが、防衛的商標を兼ねて「大阪ばな奈」という商標を登録していました。あるとき、大阪に瓢月堂という会社が同じく「菓子及びパン」を指定商品とする商標「大阪プチバナナ」を出願しました。そこで、東京のグレープストーンは商標の類似性を理由に異議申立てを行っい、ライバルとなる「大阪プチバナナ」の取消を求めようとしました。ところが、こともあろうか、逆に同社の「大阪ばな奈」という商標のほうが登録を取り消されてしまいました。なぜこのような展開になったでしょうか。
実は、大阪の瓢月堂が異議申立てを受け、「大阪ばな奈」という商標の長期不使用を理由に、「大阪ばな奈」の商標登録取消請求という反撃に打って出たのです。結果、「大阪ばな奈」という商標は実際に使用されていなかったことが確認され、取り消されることになりました。他方で、「大阪プチバナナ」という商標が、遂に登録されることになりました。
こうして、「東京ばな奈」の防衛的商標になるはずだった「大阪ばな奈」が、結局防衛にはなりませんでした。仮に飾りの防衛ではなく、少しでも「大阪ばな奈」という商標の使用実績を作っていたら、両社攻防戦の結果が変わっていたかもしれません(なお、瓢月堂の発表によると、諸般の事情により2022年4月1日をもちまして大阪プチバナナの販売が終了となりました)。
前記「東京ばな奈」の画像は同商品の公式販売サイトより引用したものです。
このように、知的財産に関わる問題であるだけに、商標の防衛も知的に準備しておかなければなりませんよね。