ネイルデザインを施したり、人工まつげを付けたりするように、可愛い入れ墨を入れたりするする人もいます(反社会的勢力と誤解されないようにくれぐれもご注意を)。自分の体なんだから、どう扱うかは自由だ、というふうに考えている方も多いのではないでしょうか。ところが、実は知的財産権の問題に絡んでくると、必ずしもそうではなくなります。今回は、実際にあったこのような事例をご紹介しましょう。
鬼塚康という人は、「合格!行政書士 南無刺青観世音―自分と人を信じて生きる」という著作を書き、本の泉社から出版しました。著者がうつ病と3年間戦いながら、行政書士試験に独学で挑み続けたという内容で、著者の思いを深く込めた著作でした。そして、更にインパクトを強めるためか、著作のタイトルにあったように、著者が自身の左大腿部に施した観世音像の入れ墨も写真に撮って、それを反転させ、更にセピア色の単色に変更した後、著作の表紙に載せました。
その入れ墨は自分の体の一部なんだから、どのように使おうが自由であろうと本人も出版社もそう思っていたかもしれません。ところが、自分の体の一部になった観世音像の入れ墨を表紙に載せたために、その入れ墨を創作した彫物師から、なんと損害賠償を請求されました。
請求の根拠を整理すると、次のとおりです。観世音像の入れ墨は著作物であり、著作者の彫物師が著作者となります。著作者には著作者人格権を有しており、即ち、自己の作品が無断で改変されない権利(同一性保持権)や自己の氏名を公表するかしないかを決める権利(氏名表示権)を保有しています。創作した観世音像の複製物(写真)を反転させ、セピア色の単色に変更した状態の掲載は彫物師の同一性保持権を侵害する行為、また創作者の氏名を公表しないままの掲載は彫物師の氏名表示権を侵害する行為、というものです。
本件は、一審と二審ともに彫物師の主張を採用し、著作者人格権の侵害を認めました(平成23年7月29日東京地裁判決、平成24年1月31日知財高裁判決)。
このように、自分の体とはいえ、他人の手を加えられた部分があると、それが法律上、完全に自分のものではなくなる可能性が生じてきます。ケース・バイ・ケースではありますが、制約なく、自由に利用できるかどうかを予め考えておいたほうが良そうですね。
知的財産に絡む部分であるだけに、知的に対応しなければなりません。そう思いませんか。