1年生向け特別企画:競争と知財の小話【4】知的財産法と競争法は法律のリングでよく対決する相手同士なの?

 前回の小話でご紹介しましたように、競争法は競争の秩序を維持し、独占を防ぐための法体系です。ところで、競争法と緊密に関わっている知的財産権法は、実は独占を守る法体系なんです。なぜならば、例えば、特許を発明者自身の財産として奪われないように守り独占する権利を認めないと、誰も新しい発明を使用としなくなるし、創作した音楽をアーティスト自身の財産としてパクられないように守り独占する権利を認めないと、誰もオリジナルの音楽を創作しようとしなくなるからです。このように、知的財産権は、独占権なんです。

 

 知的財産権法は、独占を認める理由はわかりましたが、しかし、独占を防ぎ競争を促進する競争法とは、相反するようにも見えます。両社は対立する関係にあるでしょうか。

 

 実は、両者はむしろ強力し合う場面が多いなんです。例えば、前回の小話において、販売価格の拘束という「私的独占」にもなりうる反競争的な違法行為をご紹介しました。


 ところで、教科書等の書籍やCD等の音楽商品を購入するときに、どこの本屋でもどこのショップでも、実店舗でもオンラインでも価格が同じということに気づいたたことがありますか?これは偶然でしょうか?

 

 実は、どこにおいても価格が同じというのは、割引せず表記の価格通りに販売することを、出版社が本屋やショップに指示・要請しているからです。つまり、販売価格の拘束という反競争的な行為を堂々と行っているということです。やれやれ、違法な行為なら、なぜずっと野放しされているでしょうか?疑問がどんどん深まりますよね。
 本来なら、確かに違法な行為ですが、実は競争法上(具体的にいうと、「独占禁止法」という法律)、書籍や音楽CD等に関する販売価格の拘束を敢えて法適用の対象から除外しており、即ち特例的に容認しているということです。このことも新たな疑問でなぜでしょうか?
 皆さんは想像してみてください。仮に書籍等の著作物にも価格競争を厳格に要求すると、どのような事態が起こりうるでしょうか。書籍と音楽は、文化の芸術といえます。芸術である以上、好みは人によって分かれます。好きな人は、高くてもお金かけようとしますが、そうでない人はお金をおかけようとしません。もし十年の心血を注いで書き上げた小説を一冊5千円の売値を期待して、そのまま市場競争に投げ込むと、実売価格が千円まで値下がりするかもしれません。更に中古で転売されますと、五百円になってしまうかもしれません。そうなると、果たして誰が心血を注いで著作物を創作しようしようとするでしょうか。
 このような文化産業と著作者に対する配慮から、競争法は書籍や音楽CDのような特に「繊細」な著作物について、販売価格の拘束が行われても容認することになっています。言い換えますと、競争の番人でも、知的財産の保護に協力しているということです。


 もう一例を挙げましょう。人気のおもちゃ製品やファッション商品、好評を得られる背後に開発設計者の様々な工夫が凝らされています。例えば、おもちゃの可愛い形状とか、ファッションのモダンなデザインとか、一つ一つすべて知的な財産であり、本来知財法により保護されるものとなります。ところが、実際問題として、知的財産制度を利用したくても、利用しづらい場合もあります。なぜでしょうか。
 その理由は、知的財産としての権利を法的に取得できるまでの所要期間と商品それの自体の発売期間にあります。形状やデザインは、意匠登録ができれば意匠権が認められ、他人の無断模倣から自分の意匠を守ることができます。しかし、意匠登録のために、まずは意匠出願をしなければならず、出願から登録まで更に半年から一年がかかりますので、時間も費用も必要となります。他方で、おもちゃといえば、一つをしばらく遊ぶとすぐ新しいおもちゃがほしくなるという特徴があるため、多品種少量生産のビジネスモデルが採られています。ファッションも、毎年シーズンごとに新しい流行の品が開発し発売されます。このように、おもちゃもファッションも、何れも商品のサイクルが短いものですので、そもそも意匠権を取得するための時間や費用をその都度一つずつ捻出することは現実的ではありません。
 では、せっかく設計されたおもちゃ或いはファッションのデザインが誰かに勝手に模倣されてしまった場合に、その模倣行為を止めるための手立てはないのではないでしょうか?実はあります。勝手に他人のデザイン等を盗用する狡い行為は、不正な競争行為でもありますので、競争法(具体的には不正競争防止法)を使って差止請求や損害賠償を求めることができます(具体的にどのように法適用するかについては、ゼミナールに入ってから楽しく学びましょう)。次の画像で例示しているのは、おもちゃ形状やファッションのデザインが違法に模倣されたため、実際に起きた訴訟事件です。

 

 

 二つの法制度は相互補完の関係にあります。
 知的財産の権利者に独占権を認めることにより、新たな知的財産の創出が促進されることが期待できるとともに、知的財産間の新たな競争が生まれます。他方で、競争法は、公正なかつ自由な競争秩序の維持という観点から、知的財産権制度の不足を補い、知的財産の保護に寄与している。二つの制度は相互に補い、知的財産権の保護と公正な競争を両立させ、国民経済の成長を促進しています。

 
 ただ、知的財産権は非常に強力の独占権であるゆえに、容認される範囲を超えて行使されてしまうと、正常な競争秩序を乱し、かえって市場の経済発展を妨げることもあります。このようなときに相互補完関係にある競争法はどのようにして対処していくでしょうか?次回の小話でご説明しますね。

 

                                    

2023年10月19日