フィギュアとなれば、ゴジラは自由の身?

 アメリカ映画界の最高栄誉とされるアカデミー賞で、日本の作品として初めて東宝の「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞したことが、最近話題となっていました。  

 (画像は映画「ゴジラ-1.0」より引用)

 ゴジラというと、やはり映画会社の東宝というイメージが強いのではないでしょうか。ゴジラは、東宝の知的財産という印象があります。

(画像は東宝スタジオの公式サイトより引用)
 

 

 実際に確認してみても、東宝は様々な形で「ゴジラ」を商標登録していることが分かります。例えば、次のような商標が登録されています。

(登録第5140716号)

 

 (登録第5643626号)

 

(登録第5643626号)

 

(登録第6508461号)

 

(登録第6780644号)

 

 

 現時点で、東宝が70点以上ものゴジラ関連の商標を既に登録しています。やはり、ゴジラというと、東宝の商標という印象です。ところが、あれほど東宝に大事にされているゴジラですが、縫いぐるみやフィギュア等のおもちゃに使われる商標登録が特許庁に認められないというアクシデントに見舞われたことがあります。どういうことだったでしょうか。
 2019年に、東宝がゴジラの形状を次のような立体商標として出願し登録しようとしました。

(商願2019-131821)

 立体商標とは、立体的な形状に商品・役務を識別する機能があるものとして商標登録が認められた形状のことです。
 従来の商標法では、平面商標のみ登録が認められていましたが、1996年の商標法改正により、1997年より立体商標も認められるようになりました。具体的に、身近で代表的な立体商標の例を幾つか挙げてみましょう。

 

【ケンタッキーのカーネル・サンダース立像】

(画像はKFC公式サイトより引用)
(登録第4153602号・第4170866号)

 

【きのこの山】

(商標登録第6031305号)



【たけのこの里】

(登録第6419263号)

 

【キッコーマン醤油の卓上用容器】

 

(登録第6031041号)


【任天堂のマリオ】

(登録第5794508号)


 平面商標よりも、立体商標の登録ハードルは高いですが、商品・役務を識別するという(購入者がその形状を見ただけで東宝のゴジラであることを認識できる)力を獲得していれば、前記のように、形状でも立体商標として認められうるのです。そのため、既に知名度があるブランドの形状なら、立体商標として認められやすいということができます。

 話を東宝のゴジラに戻しますが、ゴジラの形状も、十分に著名度があるはずですが、なぜ立体商標として登録が認められなかったのでしょうか。その理由は、商標法3条1項3号にあります。同号によると、形状等を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができない、ということになっています。
東宝は、ほかの区分と一緒に、ゴジラの前掲形状を「縫いぐるみ,アクションフィギュア,その他のおもちゃ,人形」に使われる立体商標として出願しました。

 しかし、特許庁(審決)は「本願商標は、『人形、縫いぐるみ・アクションフィギュア等のおもちゃ』に使用しても、これに接する取引者、需要者は、その商品の特徴や品質として採択され得る商品の立体的形状の一類型であると認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものと判断するのが相当である。(筆者注:改行)したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する」と判断しました(※出所識別等についての記述はここでは省く)。分かりやすくいうと、ゴジラの形状は、普通の怪獣の域を超えるほど特別なものではない、という評価です。ゴジラのおもちゃに慣れ親しんだファンにとって、結構手厳しい意見といえますね。

 

 特許庁のこのような評価を意外に感じる方は、さぞ多いではないでしょうか。商標出願の登録にあたって、判断が分かれるようなセンシティブなケースは、少なくありません。年月はかかりますが、立体商標と認められるよう経営努力(拒絶理由の解消)を続けていけば、ゴジラの形状も、いずれ立体商標としても登録されるのではないかと予想されます。ただ、正式に登録されるまでの間は、立体商標という領域において、ゴジラは自由の身で誰のものでもないということになりますね。

 

 

 

 

 

2024年05月13日