ゼミ研究発表討論会2025のテーマは『GAFAMのアルゴリズム(推薦・広告・個別化価格設定)は、競争を歪め、消費者の自律的意思決定をコントロールしているか?』です。
ぱっと見では「なんだか難しそう…?」と思うかもしれません。 でも実はこれ、私たちの“毎日の選択”を静かに動かしている――そんなアルゴリズムの物語なんです。
このテーマは『テクノ封建制』という著書の見解に触発されて生まれました。 同書は、主に経済学の立場から、世界がGAFAM(Google・Apple・Facebook(現Meta)・Amazon・Microsoft)に“食い物”にされ、デジタル空間ではGAFAMが領主として消費者を奴隷のように支配している――そんな衝撃的な構図を描き出しています。
そして同書には、経済法にも通じる示唆が数多く含まれています。今回のテーマに関連する部分として、例えば次のように述べられています。
「かつては私たちのデジタル・コモンズだった場所でなにをするにしても、今では巨大テック企業と巨大金融機関に対して、彼らが完全に掌握している私ちのデータを使わせてください、とお願いしなければならない。友達にお金を送るのにも、『ニューヨーク・タイムズ』を購読するのにも、デビットカードでおばあちゃんに靴下を買ってあげるのにも、見返りとしてあなたの一部を差し出さなければならない。ちょっとした手数料を払ったり、そうでなければ必ずあなたの好みについての情報の一部を共有したり、時には関心を少しそちらに向けなければならなかったり、だいたいはフィンテック「金融分野にIT技術を組み合わせたサービス」の巨大なコングロマリットに今後も引き続き監視されること(そして最終的に洗脳されること)に同意させられたりする。そして、あなたがあなたであることを認証するには、巨大フィンテック・コングロマリットの助けが必要になる。」。

「アレクサが人間でないことを知りながら、あたかも人間のように接するようになったその瞬間、私たちはこれまで以上に無防備になった――アレクサのことを、神が与えてくれた自分だけのパンドラのような機械仕掛けの奴隷だと思い込む罠にはまっていったのだ。ところが、残念ながらアレクサは奴隷ではない。むしろアレクサはあなたを奴隷に仕立てるクラウドベースの「支配・命令する資本」の一部で、あなたの助けと無償の労働によってこの資本の所有者をさらに金持ちにすることを目的にしている。」。
「実際、完全な独占市場よりもアマゾン・ドットコムはたちが悪い。少なくとも独占市場では、買い手同士が話をしたり、協会を作ったり、不買運動を起こして独占的な売り手に値段を下げさせたり、品質を上げさせたりできる。ジェフ(注:GAFAM)の領土ではそういうわけにもいかない。あらゆるモノと人を仲介するのは、中立的な市場の見えざる手ではなく――ジェフ(注:GAFAM)の利益のために働き、彼の好みにだけ合わせて踊るアルゴリズムだからだ。」。
「それでもまだ恐ろしくないというなら、このアルゴリズムは、私たちが学習させたアレクサを通して私たちについて学習し、私たちの欲望をつくり出しているアルゴリズムと同じものだということを思い出してほしい。あまりの傲慢さに嫌な気持ちになるはずだ。私たちがリアルタイムで学習を手助けした結果、私たちの裏も表も知り尽くしたそのアルゴリズムが、私たちの好みを変化させ、その好みを満足させる商品を選んで配達させている。それはまるでドン・ドレイパーが私たちに特定の商品への欲望を植えつけたうえで、どんなライバルも押しのけて、即座にその商品を玄関口に配達する超能力を手に入れたようなものだ。しかも、それはすべてジェフという男の富と権力をより増大させるためのものなのだ。」。
「アマゾンは、はじまりにすぎなかった。アリババは同じやり方で、中国で似たようなクラウド封土をつくり上げた。アマゾンを模倣したEコマース・プラットフォームがグローバル・サウスでもグローバル・ノースでも、至る所あちこちで生まれている。さらに重要なのは、ほかの産業部門もまたクラウド封土に変わりつつあることだ。たとえばイーロン・マスクが成功させた電気自動車のテスラを例にとってみよう。投資家がテスラをフォードやトヨタよりはるかに高く評価するひとつの理由は、テスラ車のあらゆる回路がクラウド資本に接続されていることにある。たとえば、運転者がテスラの意向に沿わない使い方をした場合には遠隔操作で電源を切ることができるし、運転しているだけでオーナーはリアルタイムの情報(どんな音楽を聴いているかも含めて―)を提供していることになり、テスラのクラウド資本を豊かにしている。自覚していないだろうが、最新の空気力学で輝くテスラを手に入れた鼻高々のオーナーこそ、まさにクラウド農奴なのだ。」。
「クラウド資本は人々の関心を惹きつけ、欲望をつくり出し、(クラウド・プロレタリアートによる)プロレタリア労働の原動力になり、(クラウド農奴による)大規模な無償の労働を引き出し、買い手と売り手のどちらにも普通の市場には存在する選択肢がないような、完全に営利企業に支配されたデジタル取引空間(アマゾン・ドットコムのようなクラウド封土)をつくり出した。」。
読み進めるほど、 「これ…日常で実際に起きていることじゃない?」 と、ぞくっとした実感が湧いてきます。
たとえば Amazon。
まさに買おうと思ったタイミングで“ちょうどいい広告”が届く不思議。
特別価格の表示に、気づけば「買っちゃおうかな」と背中を押されてしまう瞬間。
Alexaを“便利に使っている”つもりが、気づけば自分の生活データをせっせと提供している側にまわっていたり。
こうしたことすべての裏側で動いているのが、アルゴリズム です。
また、Microsoftが大規模投資を行う OpenAI の ChatGPT に対しても、ユーザーはその便利さに感動する一方、プライバシーや個人情報は深く把握され、知らず知らずのうちに、我々の考え方や行動を方向づける土台である深層心理にまで影響が及んでいるかもしれません。
これまで競争法の訴訟では、GAFAMと“事業者”の関係に焦点が当てられ、競争相手の事業者を違法に排除していないか?取引相手の事業者を不当に支配していないか?
が問われてきました。
でも、『テクノ封建制』が投げかける本質的な疑問は、「GAFAMと“私たち消費者”の関係はどうなっているの?」 という、これまで深く扱われてこなかった問いです。
そこで今年の討論会では、 消費者の自律性や選択、そして市場の競争が、アルゴリズムによってどこまで揺さぶられているのか? という最前線のテーマに挑みます。
両チームは、競争法と経済心理学という二つの視点から、研究成果をぶつけ合い、白熱の討論を繰り広げます!
そして当日は、あなたも“ただの観客”では終わりません!!皆さんも、討論会で両チームの議論を聞き、陪審員としてあなたの立場を評決で示してみませんか?
アルゴリズムは本当に私たちの意思決定を揺さぶっているのか? それとも、GAFAMは正当なイノベーターなのか? あなたの一票が、討論の結末を左右します。