今週の審判決報告(20221219)

 12月19日(月曜日)のゼミナールにおいて、本橋くんより農林中金私的独占事件(公正取引委員会昭和31年7月28日審判審決)の報告が行われました。審決文は本ページの最後で閲読できます。

 

 


審判審決

雪印乳業(株)ほか3名に対する件

独禁法19条(旧一般指定1項・旧一般指定8項) 

昭和29年(判)第4号

審判審決

札幌市苗穂町36番地
被審人 雪印乳業株式会社
右代表者 取締役社長 佐藤 貢
札幌市北3条西1丁目2番地
被審人 北海道バター株式会社
右代表者 代表取締役 鈴木 伝
右両名代理人
弁護士 田中 治彦
弁護士 環 昌一
東京都千代田区丸ノ内2丁目3番地
被審人 農林中央金庫
右代表者 理事長 湯河 元威
札幌市北4条西1丁目1番地
被審人 北海道信用農業協同組 合連合会
右代表者 会長 岡村 文四郎
弁護士 大塚 喜一郎弁護士 長野 潔 

公正取引委員会は、右被審人らの行為が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下私的独占禁止法という。)に違反するということで昭和29年11月22日審判開始決定を行い、これに対し昭和29年12月25日雪印乳業株式会社および北海道バター株式会社の代理人らから、同日農林中央金庫および北海道信用農業協同組合連合会の代理人らから、それぞれ答弁書が提出された。
当委員会は、私的独占禁止法第51条の2および公正取引委員会の審査および審判に関する規則第26条第1項により昭和29年12月15日総理府事務官石井幸一、同阿久津実、同吉田文剛を本件担当審判官に指定し、同審判官らは石井審判官を首席として12月25日以降翌年6月16日まで9回にわたり審判を行つたが、当委員会は昭和30年7月18日付決定により石井幸一の指定を取り消し、阿久津実を首席として吉田文剛との合議をもつて審判手続を行うことを命じたので、右両名は手続を更新し、さらに8月23日まで8回の審判を重ねた。その間、審判開始決定書は昭和29年12月24日および昭和30年5月11日の両度の決定により補充され、被審人農林中央金庫および同北海道信用農業協同組合連合会の代理人らから昭和29年12月29日、昭和30年1月17日、同年2月2日および同年同月22日、被審人農林中央金庫の代理人らから昭和30年7月15日、被審人雪印乳業株式会社および同北海道バター株式会社の代理人らから昭和30年2月2日、また右四被審人の代理人らから昭和30年5月27日および同年6月15日準備書面が提出され、なお昭和30年11月30日被審人農林中央金庫および同北海道信用農業協同組合連合会の代理人らから、同年12月12日両会社の代理人らから、それぞれ最終陳述書が提出された。
右手続の結果に基き阿久津、吉田両審判官は昭和31年3月30日審決案を当委員会に提出し、その騰本は同年4月2日各被審人に送達された。これに対して同年4月16日被審人農林中央金庫ならびに同北海道信用農業協同組合連合会の代理人らおよび両会社の代理人らからそれぞれ異議申立書が提出された。
当委員会は、本件事件記録および右異議申立書に基いて審決案を調査した結果、次のとおり審決する。
主文
一、被審人雪印乳業株式会社、同北海道バター株式会社は、被審人農林中央金庫および同北海道信用農業協同組合連合会と通謀しその他いかなる方法をもつてするかを問わず、右両会社以外の乳業者に直接または間接に原料乳を販売する農業協同組合またはその組合員に農林中央金庫から乳牛導入資金を融資されないようにしてはならない。
二、被審人農林中央金庫は、農業協同組合に乳牛導入資金の貸付をなすに当り、生産乳を直接または間接に雪印乳業株式会社または北海道バター株式会社に販売することを条件としてこれをしてはならず、また直接または間接に生産乳を両会社に販売しないことを理由として融資を拒絶しまたは差別的取扱をしてはならない。
三、被審人北海道信用農業協同組合連合会は、乳牛導入資金を被審人農林中央金庫から借り受ける農業協同組合のためにその債務を保証するに当り、生産乳を直接または間接に雪印乳業株式会社または北海道バター株式会社に販売することを条件として保証してはならない。
四、被審人雪印乳業株式会社、同北海道バター株式会社は、農林中央金庫に対する昭和28年度および同29年度乳牛導入資金の債務を保証するにつき農業協同組合として差し入れさせた念書中両会社の保証人としての利益を確保するために相当と認められる限度をこえて生産乳の販路を制限する一切の条項を無効ならしめるに必要かつ適切な措置をすみやかにとり、その経過を遅滞なく当委員会に報告しなければならない。
五、被審人農林中央金庫は、前記農業協同組合の念書または農林中央金庫と雪印乳業株式会社、北海道バター株式会社および関係農業協同組合との了解のいかんにかかわらず、乳牛導入資金の債務者たる農業協同組合または同資金により乳牛を購入した組合員もしくは保証人が右両会社の承諾なく両会社以外の者に生産乳を販売しても債務者たる農業協同組合に対し資金の繰上償還を請求してはならない。ただし、諸般の情況からみて自己の債権を確保するために他の手段がないと認められるときはこの限りでない。



事実
第一、一、被審人雪印乳業株式会社(以下雪印乳業という。)および被審人北海道バター株式会社(以下北海道バターという。)は、それぞれ肩書地に本店を置き、牛乳の処理ならびに乳製品の製造、販売等を営んでいるが、両社は、大正の末年北海道の酪農家有志により設立され北海道における酪農の普及発達に多大の寄与をした北海道製酪販売組合聯合会(通称酪聯)が戦時中の株式会社北海道興農公社に発展し、更に終戦1年後北海道酪農協同株式会社に改組され、当時北海道においては乳業をほとんど完全に独占していたところ、過度経済力集中排除法(昭和22年法律第207号)に基き昭和25年1月20日付持株式会社整理委員会の決定指令により分割され二社となつたもので、現時においても両会社の集乳量は北海道の全生産量の前者が50パーセント、後者が20数パーセント、合せて約80パーセントを占めており、両会社は集乳面においては、特に乳価の決定等につき常に協同の歩調をとつている。
二、被審人農林中央金庫(以下農林中金という。)は、肩書地に主たる事務所を置き、農林漁業関係の所属団体に対する金融を行うことを主たる業務とするものであるが、雪印乳業の株式の約4パーセント、北海道バターの株式の約2パーセントを所有し、また両社に対し多額の非所属団体融資を行つており、
被審人北海道信用農業協同組合連合会(以下北信連という。)は、肩書地に主たる事務所を置き、会員に対する金融業務を行うものであるが、単位農業協同組合(以下単協という。)が農林中金から融資を受ける場合には常に北信連の保証を必要とするのみならず、北信連は農林中金に対する融資申請の窓口ともなり、農林中金のために単協の信用その他の下調べをするのが常であつて、したがつて農林中金の融資の許否は少からず北信連の意見によつて左右される。しかして北信連の会長岡村文四郎は雪印乳業の取締役を、その副会長三井武光は最近まで北海道バターの代表取締役社長をそれぞれ兼ねており、なお北信連は北海道バターの株式の約22パーセントを所有している。
第二、一、雪印乳業および北海道バターは、昭和28年春相共にそれぞれ自社工場周辺の有畜農家に乳牛の飼育頭数を増加させるための融資をあつせんすることにより、酪農経営の安定と工場の集乳経費の軽減とを意図し、農林中金および北信連の了解を得て農林中金の資金約10億円をもつて三ヵ年間に乳牛(搾乳牛または妊娠牛)約1万頭を両会社地区に導入する計画を立て、同年6月中旬それぞれ「昭和28年-30年度乳牛増殖、乳量増産対策要綱」(別紙一の一および二の一、以下「要綱」という。)およびこれに基き融資を受ける各単協が差し入れるべき念書(別紙一の二および二の二)の形式を決定し、本計画の実行に入つた。
二、北海道においては、その気候、風土等の環境が酪農経営に適しているのみならず、数年に一度は必ず起るといわれる冷害の対策等のためにも、酪農業をあわせ営むことが一般農家にとつても有利であることはあまねく認められているが、現実には道内における酪農業の普及率はさまで高くないので一般農民の間にも酪農業に対する熱意はきわめて盛んであり、また現に酪農を営んでいる者も、最も経済的な安定した経営のためには、最低4、5頭の乳牛を保有することが必要であるのに、大部分はこの水準に達していないので、乳牛導入資金の提供は農民にとつてはすこぶる魅力がある。しかも購入される乳牛の供給地は、乳牛価格その他の点からして道内に限られるので、もしも一部に資金が供給され他に供給されないときは、資金を受け得ない地区はすでに有する乳牛を引き抜かれるおそれさえあるので、乳牛導入資金のあつせんは乳業者が農民を自社にひきつける最も有力な手段に供しうるものである。
しかるに多額の乳牛導入資金を供給しうる道内での唯一の機関であるところの農林中金、および北信連は、昭和28年8月以降各単協に乳牛導入資金を供給するに当り、雪印乳業、北海道バターと完全な了解の下に、(一)もつぱら前記「要綱」により、両会社に生産乳を供給することを条件として両会社の保証を受ける単協または組合員のためにのみ融資し、他の乳業者と取引する単協または組合員のための申請はこれを取り上げず、(二)両会社以外の乳業者の、これに原料乳を供給する単協または組合員に対する融資の保証の申出はこれを認めず、(三)両会社とその他の乳業者との集乳圏の近接交錯している地区においては両会社と取引する者に他の地区より特に厚く本資金を融資し、また(四)雪印乳業は現に他の乳業者と取引している農民を本資金あつせんを条件に自己と取引するよう誘引し、(五)農林中金の係員および北信連の役員は、組合員が両会社以外の乳業者と取引する単協は単に乳牛導入資金のみならず、その他の営農資金の融通についても不利に取り扱われるべき旨を示唆して農民の間に多大の不安の念を起させる等、ひたすら本資金を両会社の利便をはかり他の乳業者の事業活動を抑圧するように使用し、ために両会社以外の乳業会社は所要の集乳を確保するに多大の不利をこうむり、この状況が逐年反復されるにおいては事業の継続すら困難となるおそれあるに至つた。
なお右のほか、有畜農家創設特別措置法(昭和28年法律第260号)に基く家畜導入資金についても農林中金の係員は他の乳業会社と取引する協同組合に対する割当を阻止した。以上の事例を具体的に示せば左のとおりである。
(一)遠軽地区における差別的融資 本地区は遠軽町(網走支庁紋別郡)に前記過度経済力集中排除法に基く決定指令により森永乳業株式会社(以下森永乳業という。)に譲渡された同社の遠軽工場があり、周辺に中湧別工場その他の雪印乳業の工場があるため両社間の集乳競争の殊に激じんな地区であるが、右森永乳業への工場の移譲に伴い地区の全部または一部が森永乳業と生産乳取引を開始するに至つた上湧別町農業協同組合、湧別町芭露農業協同組合、下湧別村湧別農業協同組合、遠軽町農業協同組合、佐呂間町農業協同組合、上佐呂間農業協同組合、生田原農業協同組合、安国村農業協同組合(融資申請後生田原農業協同組合に吸収合併された。)、白滝村農業協同組合等の各単協(その一部の組合員が森永乳業遠軽工場と取引している単協においては森永乳業取引関係者の分について)は、昭和28年8月ごろから隣接両会社地区に乳牛導入資金の割当が行われはじめたので、同年9月ごろから翌年初めにかけ乳牛導入資金(昭和28年度分)の借入のため、農林中金および北信連と数回にわたつて交渉を重ね、この間昭和28年11月ごろから農林中金に対してそれぞれ融資申請書(申請額の総計3100余万円)を提出し、同時に森永乳業北海道事務所長浪岡弥一郎も昭和28年10月30日および12月12日の2回にわたり農林中金札幌支所長永井国男と会見し、これら単協の債務は同社が保証すべきことを申し出て融資を懇請したが、いずれも乳牛導入資金は主として雪印乳業、北海道バター両会社の経営合理化を図る趣旨のもので他の乳業者と取引している単協には融資する筋合のものでないとて拒否された。このためこれら単協では地区内の乳牛が両会社地区に移出されるような事態も起つたので、同年10月ごろから翌年3月ごろにかけて森永乳業から乳牛導入資金を借り入れるに至つた。もつとも、この当時からほとんど1年の長期間を経た後当委員会の本件審査が進み審判開始決定の行われる直前、関係者が農林中金、北信連と数次にわたる交渉の結果とうてい見込なしとあきらめていた際昭和29年10月30日に至り突然右各組合のうち、上湧別町、生田原の両農業協同組合の申請に対して、農林中金から前者は200万円(申請額通り)、後者は73万5000円(申請額の約半額)の融資決定をした旨の通知があつたが、この決定たるや、生田原農業協同組合にあつては北信連において書類不備として注意されたままの融資申請書に対するものであり、上湧別町農業協同組合にあつては農林中金の内規によりその金額は本所の決裁を要するものであるのを事後承認を受くることとして札幌支所限りで生田原と同日通知を発する等急きよなされたものであり、これらは当時の農林中金の正常な融資の例とみることを得ない。
他方右上湧別町農業協同組合は、組合員の約4分の1が森永乳業遠軽工場地区に属し、残りが雪印乳業中湧別工場地区に属するが、同組合は雪印乳業地区の分の昭和28年度乳牛導入資金470万円の融資を昭和28年9月11日に農林中金に申請し、はやくも同年11月2日に農林中金から申請金額通りの融資をうけている。
また、雪印乳業は、昭和28年8月末森永乳業が雪印乳業の集乳地区であつた紋別郡沼ノ上地区の一部において集乳取引を開始するや、あたかもこれに対抗するがごとく、前記湧別町芭露農業協同組合、生田原農業協同組合、若佐村農業協同組合その他の数農業協同組合を、乳牛導入資金をあつせんすることを条件に従来森永乳業と取引していた組合員に自社と取引するよう勧誘した。その結果湧別町芭露農業協同組合の計呂地地区酪農民の1部が雪印乳業(中湧別工場)に取引先を変更することとなるや、雪印乳業は、湧別町芭露農業協同組合に交渉して昭和28年10月13日農林中金宛計呂地地区分(雪印乳業と取引することとなつた者の分)として、昭和28年度乳牛導入資金30頭分300万円の融資申請書を提出させたが、同年11月14日には農林中金から融資決定通知(申請金額通り)があつた。右通知書には「本資金は雪印乳業の申添えもあり、貴地区内の乳業事情に鑑みお取計い申上げますが、対象地区内牛乳はあげて会社に出荷するよう恒久的な指導対策を講じて下さい」との付記がなされている。
右計呂地地区分昭和28年度の融資額300万円は他の地区に比しすこぶる優遇されている額であることは雪印乳業中湧別工場当事者もこれを認めている。なお、森永乳業の遠軽工場と最も近接せる雪印乳業中湧別工場の取引関係地区の乳量比率による乳牛割当頭数は75頭であるにかかわらず同地区には昭和28年度分として147頭分、昭和29年度分として134頭分の乳牛導入資金が融資されている。
(二)北見地区における他社との取引妨害 網走支庁常呂郡訓子府町の訓子府町農業協同組合は、従来所属酪農民の全部が北海道バター北見工場と取引してきたがかねてから旧酪連系会社の運営方式にあきたらず生乳の取引先変更を考究中であつたところ、たまたま昭和29年初めごろ北信連、北海道販売農業協同組合連合会(以下北販連という。)、北海道指導農業協同組合連合会、両会社および酪農協会によつて構成されている「5日会」が「北海道酪農基本要項案」を作成して関係者に配布したが、その内容に両会社を農協連合会化し道内の生産乳は農協で集乳し北販連を通じて両会社に販売する方針が含まれていたため一部酪農民をいたく刺激し(その後本「要項」においては両会社に販売することは削除されている。)、訓子府町農業協同組合の酪農民の間にもこの案は酪農民を会社に縛りつけ両会社による集乳の独占を企図するものであるとの批判が起り、その結果同年4月ごろから取引先を森永乳業に切りかえ同社と同組合との間で団体契約を締結することとした。これに対して既に昭和28年度の北海道バター保証にかかる乳牛導入資金156万円を同組合に融資していた農林中金は5月22日文書をもつて森永乳業との契約締結は系統金融機関として深じんなる関心を有しそれが事実ならばはなはだ遺憾である旨を表明し、その経緯について報告を求めた。
更にその後森永乳業との契約締結に反対する一部の酪農民およびこの契約は農協の上部系統機関からの不信を招くであろうとのうわさを心配した多数の一般農民(同組合は約千名の組合員中約300名が酪農民である。)の要求によつて6月6日同組合の臨時総会が開かれ、その席上農林中金札幌支所の農林第二課長滝脇真円が中金の意向として同組合が北海道バターとの取引をやめて森永乳業に牛乳を出荷する場合には営農資金、冷害資金等の融資についても影響があるであろうという趣旨のことを示唆したため総会は一時大混乱におちいつたが、その後滝脇が前言を取り消したため会場は秩序を回復し、この総会は、農民大会として決議した森永乳業との契約締結等の件を可決した。
またこのころ北信連の副会長にして北海道バターの社長である三井武光も、同組合の北海道バター側酪農民の集まりである訓子府町酪農革新会結成会の席上で農協の幹部が森永を誘致することは遺憾であり、営農資金は一般市中銀行では貸し出されていないのであるから森永乳業との提携はよく考えるべきであるという趣旨を述べた。
かくのごとく訓子府町農業協同組合の原乳取引の問題は同組合の酪農民のみでなく一般農民の間にも動揺を与えたが、更にこの問題は全道の農業協同組合のあり方について大きな波紋を生ぜしめた。
なお農林中金の訓子府町農業協同組合の300名に近い酪農民に対する昭和28年度乳牛導入資金の割当は前述のごとく20頭分156万円であつたのに、昭和29年度は同組合の全酪農民中のわずか50名足らずの北海道バター出荷者の分として30頭分255万円が融資されている。これまた他社との競争地区には不相応に多額の資金を供給している一例である。
(三)斜網地区における原乳生産農家引止 網走支庁斜里郡の斜里町、上斜里村および小清水各農業協同組合は、従来雪印乳業網走工場と生産乳取引を行つていたが、これら単協の地区は同工場から相当離れている(たとえば斜里町は網走工場から約40キロの距離にある。)ため雪印乳業の指導援助もあまり積極的でなく、その生産乳は雪印乳業により最低段階の乳価で購入され、乳牛の頭数も次等に減少しつつあつた。しかるに、三井農林株式会社(以下三井農林という。)がこれら単協から1日最低20石程度の生産乳を受け入れ処理する予定で昭和28年8月ごろ新たに斜里町に工場を設置するや(操業開始は同年12月ごろ)、雪印乳業はにわかに従来の態度を改め、同工場から遠隔の地であるにもかかわらず乳牛導入資金(昭和28年度)を斜里町農業協同組合に15頭分、上斜里村農業協同組合に10頭分、小清水農業協同組合に20頭分割りあてる予定をなし自社との取引を継続するようこれらの組合に働きかけ、その結果斜里町農業協同組合の大部分、上斜里村農業協同組合、小清水農業協同組合の全部が三井農林への生産乳出荷をとりやめるに至り、このため三井農林斜里工場では当初予定集乳量の半量程度しか集乳できず事業経営が困難となるに至つた。三井農林斜里事業所長大鐱④脇噂蠅料犇罰・呂棒茲世繊⊂赦・8年10月10日農林中金札幌支所黒田次長と会見し、三井農林斜里工場と取引する者に対しても乳牛導入資金を融資するよう懇請したところ、同次長は農林中金としては現在のところ雪印乳業と北海道バター両会社取引関係地区だけに融資しているから三井農林取引関係者には融資できない、しかしもし三井農林が雪印乳業と提携し、三井農林で使用する原料乳を全部雪印乳業から購入するか、または三井農林の工場の製品を全部雪印乳業を通して販売するかすれば考慮しないこともないという趣旨を答え、ために自社の取引関係者に対する昭和28年度乳牛導入資金の融資あつせんを断念した。同人は昭和29年7月10日さらに昭和29年度乳牛導入資金の融資について永井支所長と折衝したが、永井支所長は農林中金は明治乳業および森永乳業の関係には本資金の貸出をしていない、したがつて三井農林関係だけに融資することは右二社と異なる何かの特殊な事由でもない限り困難であるという趣旨を答えたので(なお、このとき大釮・崙・軻各・餠發蝋・貅・佞了・虧・戮鮃發瓩襪燭瓩僕算颪気譴襪箸いΔ海箸任△襪砲・・錣蕕此⊆侘つ・清閥・荏塙臙篭菘傔祕・・箸旅・譴・蕷鵑・イ譴討い訝楼茲砲泙罵算颪気譟△燭瓩忙旭翡昔咾蝋・譴料犇箸砲弔㍍很薪・之發鮗・曳鷯錣忘い弔討い襦彁櫃鯱辰靴燭里紡个掘・憤羯拿蠶垢呂修里海箸禄淑・錣・弔討い觧歸悊┐討い襦・紡莎釮肋赦・9年度分についても三井農林取引関係者のために融資あつせんを断念せざるを得なかつた。
なお、右の各単協に対して昭和28年末ごろ、農林中金から雪印乳業の割当頭数分通りの乳牛導入資金が融資されている。(四)帯広地区その他における生産乳取引の拘束 明治乳業株式会社(以下明治乳業という。)は、帯広に工場を開設し、昭和29年1月初より操業を開始したが当時既に同工場周辺の各単協はおおむね両会社いずれかの保証の下に乳牛導入資金を農林中金から受けており、この融資は結果においてそれぞれ保証会社との取引継続が条件となつていたため(なおたとえば、農林中金の音更村(行政地区の変更で現在は音更町)農業協同組合にあてた昭和28年10月27日付雪印乳業保証の乳牛導入資金融資決定通知書には「組合員の生産牛乳はあげて系統会社である雪印乳業へ出荷するよう強力な御指導を願いたい」旨が付記してある。)、その集乳活動は困難をきわめた。同社の工場長竹内栄一は雪印乳業の帯広工場は戦前明治乳業の系統会社の工場であつたので、それらの旧縁をたどつて勧誘につとめた結果辛うじて従来雪印乳業帯広工場その他と取引を行つていた約16単協の一部の組合員との生産乳の取引を開始することはできたが、昭和29年6月ごろまでは、その1日の集乳量は約10石という状態であつた。(その後同年7月ごろ宝乳業株式会社の業務を引き継いだ関係もあり1日の集乳量は30石前後に増加した。)一方同社の北海道事務所長潮田辰次も昭和29年5月初めごろ、農林中金の永井支所長を訪れ、同社と取引する単協に対しても乳牛導入資金の融資をするよう要望すると共に、既に融資を受けている両会社取引関係者が新たに明治乳業と取引する場合には明治乳業が両会社に代つて保証することとしたい旨を申し入れたのに対し、同支所長は、森永乳業に対する場合と同じく乳牛導入資金は雪印乳業、北海道バター両会社の援助という意味をもつており、農林中金としては他の乳業者の地盤に融資することは考えていない旨を答え、肩替りを認めず右の要求を拒否した。よつて明治乳業は約800万円の資金を自ら工面して、あるいは奨励金として与えまたは乳牛導入資金として貸し付けることによつて原乳生産者をつなぎ止めるのほかなかつた。
次に、雪印乳業は、昭和29年4月19日社長名をもつて関係単協の組合長宛、
原料乳争奪戦の酣なる現況下において融資を受けた組合または組合員中契約に反して原料乳を他社に供給される向が発生しつつあることであつて、同社においても詳細なる状況を取りまとめてその筋に連絡することになつておるが、他社に原料乳を供給する場合には状況により該資金の一部もしくは全部の繰上償還を求められるのみならず、今後の融資査定においても厳に之を除外する方針がとられるべきにつき、万一にも貴組合員中該資金導入者にして他社に原料乳を供給するむきが出来た場合は、さきに組合長等の連署差し入れた念書等も再確認させる意味で該当者に説明し、原料乳はすみやかに同社集荷に復帰するよう勧告されたき
旨の強硬な文書を送付した。その後たとえば三川地区(空知支庁夕張郡)においては、明治乳業と取引を開始した由仁町酪農業協同組合の該当者12名中4名が雪印乳業に復帰し、追分町農業協同組合の該当者3名中一名が借受金を同組合に返還することとなつた。
(五)有畜農家創設特別措置法資金の割当より今金町酪農業協同組合の排除 上記酪農経営の安定(すでに乳牛を有する農家を対象とし、保有頭数を経済単位まで高めること)を目的とする両会社「要綱」の乳牛導入資金とやや趣を異にして全国の無畜農家解消を目的とする有畜農家創設特別措置法(昭和28年法律第260号、同年9月1日公布施行)に基く資金の各農業協同組合に対する割当は都道府県知事が一定の計画および基準に従つてこれを行うものであるが、その資金の出所は主として農林中金であつて、したがつてその意に反して実施することはできないものである。
よつて、北海道庁においては、前年農林次官通達(昭和27年6月6日27畜第1806号)にかかる有畜農家創設要綱に基き同性質の資金を配分した際独自に割当を定めて各支庁を通じて発表したところ農林中金の審査によりこの割当の中から削除された単協が多数生じたためこれらの単協には無用の手数と費用を掛けかつは北海道庁の権威にも関するきらいもあつた経験にかえりみ、昭和28年6月あらかじめ前記措置法による資金の割当案を作成するに当つて同庁ではその原案を農林中金の当局者に示して意見を求めたところ、農林中金札幌支所の農林第2課長滝脇真円は今金町酪農業協同組合(檜山支庁瀬棚郡今金町)に30頭分割り当てたのを不適当とした。よつて同庁ではその言のままに今金を削り、その分の資金は同じく檜山管内の厚沢郡に振り向けた。このことについて今金町酪農業協同組合組合長小岩隆一が友人の北海道森林組合連合会理事加藤五郎を介して事情を確かめたところ、農林中金が今金に反対した理由は、同組合が前に自ら製酪施設を所有せんとして所要資金を農林漁業金融公庫から借入方農林中金に申し込んだところ農林中金はこの企図を好まず手続を進めなかつたので、同組合は北海道庁のあつせんにより北海道銀行を通じて農林漁業金融公庫から470万円の資金を借り入れて処理工場を設置したことおよび同組合は組合員の生産乳の1部を前記自家の工場で処理して、大部分の原乳は明治乳業に販売し、製品の1部は森永乳業に販売していることであることが判明した。
なお、明治乳業の今金工場は前記過度経済力集中排除法に基く決定指令により、附属集乳施設と共に同社に売却されたもので今金町酪農業協同組合が同社と取引するに至つたのは右決定指令の趣旨に従つたものである。
三、以上主として昭和28年度の融資状況を述べたが、昭和29年度はさらに一層両会社の原乳生産者との排他的取引を確実ならしめるため、昭和29年6月両会社は農林中金および北信連と協議して(一)資金借受組合の生産乳は全て保証会社に販売させること、(二)単協から保証会社に差し入れさせる念書に生産乳の会社販売に違反した場合には繰上償還させることを規定すること、(三)北信連は以上の条件を保証条件とすることを決定し、この趣旨に従つて両会社は「要綱」に「会社の信用保証により資金を借入れ乳牛を購入したる者は借入資金の返済が完了するまでは借入れにより購入した乳牛の分のみならずその人の経営内における生産牛乳全量(自家消費量を除く)を会社に販売することを確約する」との規定を加え、また「要綱」に基いて単協が保証会社に差し入れる念書に「若し当組合が貴社の承諾を得ずして第三者と牛乳の取引契約をなし、若しくはこの資金により乳牛を購入した組合員及び保証人が貴社の承諾を得ずして第三者に牛乳を販売したる時、債権者若しくは貴社よりその全額又は一部の返還要求ありたる場合は異議なく之に応ずる。」旨を追加規定し、北信連は、昭和29年度の融資保証に当り、単協あて「会社保証による乳牛導入資金の取扱い並に代金決済要領について」と題する文書において「本資金の借入農家および保証人はその経営内における生産牛乳を組合へ、組合は会社へ販売することが保証条件」である旨を記載し、単協または組合員の生産乳取引に対する拘束を強化しかつその範囲を拡げることとなつた。
しかして、右の改正「要綱」「念書」等に基く昭和29年度分乳牛導入資金融資の状況をみると、
昭和29年6月、両会社はそれぞれ自己と取引する各単協に乳牛導入資金借入希望頭数を申し出させた上、両会社の導入計画に基いて各単協別に割当を行い、その割当案を北信連、農林中金に回付して両者の査定をうけ右の各単協別割当頭数は8月中旬ごろまでに北信連または両会社から各単協に通知された。たとえば、北信連北見支所は昭和29年8月4日付文書をもつて、昭和29年度分融資が北信連、農林中金および両会社協議の結果内定された旨を管内各関係単協に通知しており、また雪印乳業網走工場は昭和29年8月11日付文書をもつて、昭和29年度の融資については、農林中金、北信連等と折衝していたが、このたび決定をみた旨を管内各関係単協に通知している。
右の割当頭数内定に基き関係各単協では、昭和29年9月ごろから農林中金あての融資申請書を北信連に提出したが、同申請書には必要添付書類として昭和29年6月改正の「要綱」およびそれに基いて単協から会社に差し入れた「念書」の写ならびにその「念書」を会社に差し入れることについての審議過程を明らかにした組合理事会議事録抄本等が添付されている。
かくして、この前後より資金借受予定者のうちには前年度の例により融資が確実であるとして乳牛の購入を開始したものもあるが、本件が当委員会の審査、審判の対象となつたので農林中金においては手続を一時見合わせるに至り、このため既に乳牛を購入した資金借受予定者は北信連その他から農林中金の融資が行われるまでのつなぎ資金の融資を受け、その後昭和30年初めごろに至りはじめて農林中金からそれらの者に対する貸出が開始された。
四、しかるに、以上のような乳牛導入資金の融資方法が単協、酪農民等の間で問題とされ、北海道議会、国会での問題ともなり、また当委員会の審査、審判が開始されるや、昭和30年2月ごろ農林中金および北信連は乳牛導入資金の融資につき会社保証に替えて北海道経済農業協同組合連合会(以下北経連という。)への委託販売すなわち生産乳を農家から単協へ、さらに北経連へ販売する方式を条件とすることとし、その旨を両会社に申し入れたので、両会社は同年3月ごろ「要綱」をさらに改正し、同資金の借入につき会社保証制度を廃止し利子補給を中心とすることに変更を加えた。
また前出農林中金永井札幌支所長は、昭和30年3月初め札幌市で開かれた北見地区関係農業協同組合長会議において生産乳の販売権をもつ単協に対しては公平に融資する旨を明らかにし、昭和30年5月ごろから昭和29年度分融資を斜里町農業協同組合、湧別町芭露農業協同組合、下湧別村湧別農業協同組合、佐呂間町農業協同組合、若佐村農業協同組合等の両会社以外の乳業者と取引している地区に対しても一部実施している。
なお、農林中金札幌支所は昭和30年10月初めごろに至り「昭和30年度乳牛導入資金貸出取扱要領」を定めたが、それによれば「貸出(転貸)対象農家」の項においては「生産牛乳の全てを農業協合組合に販売委託すること」とし、それ以上に販売先を限定していないが、貸出注意事項として「組合は原則として北経連と牛乳の委託販売契約を締結すること」が記されているほか、この取扱要領に基き単協が農林中金に差し出す念証は、販売先が北経連の場合と乳業会社の場合とに区別され、北経連の場合の念証には「本資金の転貸先を含む当組合員生産乳の当組合と北経連との販売委託契約を貴金庫ならびに北信連の承諾なく、当組合の都合にて解約したときは、本資金は直ちに全額繰上償還する」旨の条項がそう入されている。
右に引用した「取扱要領」ならびに貸出注意事項中の字句は、現実には両会社以外と取引する農家またはその組合は北経連に販売を委託していないのでなおこれらの業者を融資の対象から排除するよう運用される余地絶無にあらざるところ、農林省農林経済局長は、昭和30年10月27日北海道知事あて通達(同日付その通達の内容を農林中金あて通知)において「……一般に農協の系統利用が恰も独禁法に抵触するがごとき印象を受けているが、事実そのような事はなく、公正取引委員会においても農協の系統利用を否定するものでなく……過去においては北海道における乳牛の導入に関し、農林中金が個々の会社との間において対策要綱を作成し、これに基いて乳牛導入資金の貸付を行つてきたが……今後は道庁において道全体の綜合的酪農振興方針に立脚して樹立された乳牛導入計画に基き、有効適切な乳牛導入資金が系統金融機関から円滑に融通せられるよう、農林中金等と充分協議の上よろしく措置」するよう要望すると共に、右取扱要領中問題のある点について、農林中金と打合せの上
一、要領貸出注意事項に「組合は原則として北経連と牛乳の委託販売契約を締結すること」となつているが「北経連以外(地区連等)に販売することやむを得ないものと認められる組合」についてはこの限りでない。
二、要領添付念証中「本資金の転貸先を含む当組合員生産乳の当組合と北経連との販売委託契約を貴金庫ならびに北信連の承諾なく、当組合の都合にて解約したときは本資金は直ちに全額繰上償還すること」とあるが、これは金融機関の債権確保の規定であり「債権確保上支障がなくかつ北経連以外に販売することがやむを得ないものと認められる組合については販売先の変更を承諾す」べきである。
と解釈を一定した次第を通知し、その旨末端まで徹底させるよう依頼している。



証拠
前記事実第一は、
一の末尾の「両会社は集乳に関し特に乳価については常に協同の歩調をとつている」という点が参考人山岸六郎、同森谷武繁の審判廷における各陳述により認められ、
二の「単位農業協同組合が農林中金から融資を受ける場合には常に北信連の保証を必要とするのみならず、北信連は農林中金に対する融資申請の窓口ともなり、農林中金のために単協の信用その他の下調べをするのが常であつて、従つて農林中金の融資の拒否は少からず北信連の意見によつて左右される」という点が参考人田下健治、同竹浪秀明、同金房欣吾の審判廷における各陳述および領第10号証(北信連定款)によつて認められるほか、被審人らの認めて争わぬところであり、
事実第二の一は、
参考人山岸六郎、同本田五郎、同永井国男、同沼部園春、同潮田辰次、同浪岡弥一郎、同昌谷孝、同加地謙三の審判廷における各陳述、査第1号証(雪印乳業昭和28年―30年度の乳牛増殖、乳量増産対策要綱、念書等)、査第3号証(同上北海道バター分)、査第5号証(永井国男の供述調書)、査第9号証(昭和28年7月25日付雪印乳業から農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入資金借入申込書について」と題する文書写)、査第12号証(北信連より農林中金札幌支所あて文書)、査第13号証(農林中金札幌支所、「雪印保証乳牛導入資金について」と題する文書)、査第26号証(青木耕栄の供述聴取報告書)、弁甲第10号証(昭和28年7月30日付農林中金札幌支所長から本所審査部長あて「雪印乳業並に北海道バター会社債務保証による乳牛導入資金について」と題する文書写)、弁丙第1号証の(二)(雪印乳業、昭和28年度―30年度乳牛増殖、乳量増産対策)、同号証の(三)(会社の行う自昭和28年度至昭和30年度、乳牛増殖、乳量増産対策)、弁丙第2号証(雪印乳業稟議書)、弁丙第7号証(雪印乳業、酪農委員会規約)、弁丙第8号証の(一)(雪印乳業、第8回工場委員長会議記録抜すい)、弁丁第1号証(北海道バター回議書)により、
事実第二の二は、
参考人永井国男、同森谷武繁の審判廷における各陳述、前記弁甲第10号証、前記査第5号証、査第7号証(大西武雄の供述調書)、査第14号証(遠軽地区11農業協同組合陳述書)、査第18号証(渡辺芳郎の供述調書)、査第20号証(香川嘉太郎の供述調書)、査第86号証(昭和29年5月21日付農林中金札幌支所から本所審査部あて「有畜農家創設事業資金について道会議員陳情について回答」と題する文書)、査第89号証(雪印乳業から農業協同組合長あて昭和29年4月16日付「弊社保証証による乳牛導入資金借受者にして原料乳他社供給防止御依頼について」と題する文書)によるのほか、
(一)については、
参考人大西武雄、同細谷悦三、同石田勝喜、同山岸六郎、同永井国男、同浪岡弥一郎、同金房欣吾、同森谷武繁の審判廷における各陳述、査第6号証(越智清敏の供述調書)前記査第7号証、査第8号証(農林中金札幌支所の家畜導入資金(会社保証分)貸出調書)、前記査第14号証、査第15号証(昭和28年10月13日付湧別町芭露農業協同組合より農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、査第16号証(昭和28年11月20日付湧別町芭露農業協同組合より農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、査第17号証(昭和30年12月14日付農林中金札幌支所から湧別町芭露農業協同組合あて融資決定通知書)、前記査第18号証、査第19号証(笠井憲治の供述調書)、査第27号証(雪印乳業、昭和29年度乳牛導入資金斡旋業務進捗状況調)、査第28号証(北海道バター、昭和29年度乳牛導入計画)、査第31号証(永井国男の供述聴取報告書)、査第42号証(清水精一の供述調書)、査第46号証(雪印乳業中湧別工場長から上湧別町農業協同組合長あて「会社保証による融資決定について」と題する文書)、査第77号証(昭和28年10月14日付農林中金札幌支所より下湧別村湧別農業協同組合に対する乳牛導入資金融資決定通知書)、査第78号証(昭和29年2月20日付下湧別村湧別農業協同組合より農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、査第88号証(遠軽町農業協同組合長証明書)、査第90号証(雪印乳業中湧別工場長から本社生産部長あて、計呂地地区畜牛増殖並びに乳量増産計画書送付の件)、領第6号証(生田原農業協同組合から農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、領第7号証の四(生田原農業協同組合から農林中金あて昭和30年1月24日付質問文書)、領第7号証の五(生田原農業協同組合から北信連あて乳牛導入資金借入申込書)、弁甲第6号証(農林中金札幌支所から上湧別町農業協同組合に対する昭和29年10月30日付融資決定通知書)、弁甲第7号証(農林中金札幌支所から生田原農業協同組合に対する昭和29年10月30日付融資決定通知書)、弁丙第10号証(雪印乳業、昭和28年度会社保証乳牛導入資金斡旋実績調)、弁丙第11号証(雪印乳業昭和29年度乳牛導入資金融資斡旋業務進捗状況調)により認めることができる。右参考人浪岡弥一郎の農林中金札幌支所長永井国男が乳牛導入資金が両会社の経営合理化を図るための資金である旨を同人に告げたとの陳述について(その他の参考人の同様の陳述についても)、農林中金、北信連の代理人らはその最終陳述書において、右は両会社の競争会社の担当者等の利害関係より生じた誇張であつて信用し難いと主張しているが、永井札幌支所長は査第5号証(同人の供述調書)および審判廷における陳述において本件乳牛導入資金が両会社の経営合理化を図る趣旨のものであることを否定し居らず、前記最終陳述書の主張はこれを首肯することを得ない。
同(二)については、
参考人富山明一、同細谷悦三、同渡辺義夫、同茅山健蔵、同竹内栄一の審判廷における各陳述、前記査第5号証、前記査第8号証、査第11号証(北海道バター、昭和28年度乳牛増産計画)、査第21号証(昭和29年5月22日付農林中金札幌支所発訓子府町農業協同組合あて文書)、査第22号証(訓子府町農業協同組合第9回臨時総会議事録写)、前記査第28号証、査第60号証(昭和30年4月5日付北信連北見支所から訓子府町農業協同組合あて「乳牛導入資金決定書類送付について」と題する文書)、査第61号証(昭和30年3月25日付農林中金札幌支所から訓子府町農業協同組合あて文書)、弁丁第6号証(北海道バター、昭和28年度乳牛導入状況)、弁丁第7号証(北海道バター、昭和29年度乳牛導入資金進捗状況調)、および茅山健蔵提出書類(昭和30年8月9日付審判官の書類提出命令に基き昭和30年8月18日付で提出のあつた書類)により、
同(三)については、
参考人大鐱④凌拡縦遒砲・韻訥捗辧∩圧Ⅵ座・号証、前記査第27号証、査第52号証(金喜多一の供述調書)、領第2号証(三井農林斜里事業所長から本社事業部長あて報告書)により、
同(四)については、
参考人竹内栄一、同潮田辰次の審判廷における各陳述、査第73号証(昭和28年10月27日付農林中金札幌支所から音更村農業協同組合あて融資決定通知書)、前記査第89号証、領第1号証(昭和29年5月12日付明治乳業北海道事務所長より同社取締役社長あて文書)により、
同(五)については、
参考人今野喜市、同加地謙三、同潮田辰次の審判廷における各陳述、査第32号証(今野喜市の供述調書)、査第33号証(滝脇真円の供述調書)、査第34号証(実況見分書)、査第35号証(領置書)、査第36号証(小岩隆一の供述調書)により、
事実第二の三は、
査第2号証(雪印乳業、昭和29年6月21日付改正要綱、念書等)、査第4号証(同上北海道バター分)、前記査第8号証、前記査第12号証、前記査第13号証、査第23号証(昭和29年7月2日付、農林中金札幌支所「会社保証による乳牛導入資金融資について打合事項」と題する文書)、査第24号証(農林中金札幌支所昭和29年7月23日付「会社保証による家畜購入資金の取扱について」と題する文書)、査第25号証(昭和29年7月30日付北信連北見支所長から訓子府町農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入資金の取扱い並に代金決済要領について」と題する文書)、前記査第26号証、前記査第27号証、前記査第28号証、査第29号証(雪印乳業関係組合別乳牛導入頭数)、査第30号証(北海道バター関係組合別導入頭数)、査第37号証(昭和29年8月4日付北信連北見支所長から湧別町芭露農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入組合別頭数について」と題する文書)、査第38号証(昭和29年8月19日付雪印乳業から関係各農業協同組合長あて「会社保証乳牛導入資金借入申込について」と題する文書)、査第39号証(昭和29年10月28日付湧別町芭露農業協同組合の農林中金に対する昭和29年度乳牛導入資金借入申込書)、査第40号証(昭和29年12月17日付雪印乳業中湧別工場長から湧別町芭露農業協同組合あて「当社保証乳牛導入資金の資金の資金化時期について」と題する文書)、査第41号証(昭和30年2月24日付湧別町芭露農業協同組合から北信連北見支所あて「乳牛導入資金継ぎ資金借入申込について」と題する文書)、前記査第42号証、査第43号証(昭和29年8月4日付北信連北見支所から上湧別農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入組合別頭数について」と題する文書)、査第44号証(昭和29年8月11日付上湧別町農業協同組合長から北信連北見支所長あて「会社保証による乳牛導入頭数増加依頼について」と題する文書)、査第45号証(昭和29年8月21日付北信連北見支所から上湧別農業協同組合長あて「会社保証による乳牛頭数追加について」と題する文書)、前記査第46号証、査第47号証(上湧別町農業協同組合の農林中金に対する昭和29年度乳牛導入資金借入申込書)、査第48号証(昭和29年8月4日付北信連北見支所長から斜里農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入組合別頭数について」と題する文書)、査第49号証(雪印乳業網走工場長から斜里町農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証による乳牛導入資金について」と題する文書)、査第50号証(昭和29年8月19日付雪印乳業より各農業協同組合あて「会社保証乳牛導入資金借入申込について」と題する文書)、査第51号証(斜里町農業協同組合から農業林中金あて昭和29年度乳牛導入資金借入申込書)、前記査第52号証、査第53号証(北見市農業協同組合から農林中金あて昭和29年度分乳牛導入資金借入申込書)、査第54号証(北見市農業協同組合から北信連あて昭和29年度乳牛導入資金つなぎ資金借入申込書)、査第55号証(川村正雄外5名から北見市農業協同組合長あて乳牛代金受領証)、査第56号証(乳牛購入証明書)、査第57号証(北信連北見支所から北見市農業協同組合に対する貸付決定通知書)、査第58号証(今村実の供述調書)、査第59号証(昭和29年10月7日付訓子府町農業協同組合より農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、査第62号証(昭和29年6月1日付雪印乳業帯広工場長から幕別町札内農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証(中金融資)乳牛導入資金借入申込に関する件」と題する文書)、査第63号証(昭和29年6月6日付札内農業協同組合長から各畜産部長、酪農振興会役員あて「雪印乳業会社保証乳牛導入資金借入申込の取まとめについて」と題する文書)、査第64号証(幕別町札内農業協同組合会社融資申込者氏名)、査第65号証(昭和29年8月13日付雪印乳業帯広工場長から札内農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証乳牛導入資金割当に関する件」と題する文書)、査第66号証(昭和29年12月10日付雪印乳業帯広工場長から札内農業協同組合長あて「本年度会社保証乳牛導入つなぎ資金について」と題する文書)、査第67号証(梶浦福督の供述調書)、査第68号証(昭和29年6月1日付雪印乳業帯広工場長から音更町農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証(中金融資)乳牛導入資金借入申込に関する件」と題する文書)、査第69号証(昭和29年8月13日付雪印乳業帯広工場長から音更町農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証乳牛導入資金割当に関する件」と題する文書)、査第70号証(昭和29年8月31日付雪印乳業帯広工場長から音更町農業協同組合長あて「昭和29年度会社保証乳牛導入に関する件」と題する文書)、査第71号証(昭和29年9月30日付音更町農業協同組合から北信連あて乳牛導入資金借入申込書)、査第72号証(川田健二郎外5名から音更町農業協同組合に対する金円借用証書)、査第74号証(高木米治郎の供述調書)、査第75号証(石川進の供述調書)、査第79号証(昭和29年8月4日付北信連北見支所長から湧別町農業協同組合長あて「会社保証による乳牛導入組合別頭数について」と題する文書)、査第80号証(昭和29年10月1日付湧別町農業協同組合から農林中金あて乳牛導入資金借入申込書)、前記弁丙第11号証、前記弁丁第7号証、被審人農林中金外3名提出の昭和30年5月27日付準備書面別紙「昭和29年4月―昭和30年4月間乳牛導入資金(一般)貸付調書」により、
事実第二の四は、
参考人昌谷孝、同大沢重太郎、同加地謙三、同沼部園春、同大鐱①・営・鎮ぜ ・穎臆・鎔賚困凌拡縦遒砲・韻覲督捗辧・鐃蛙庸昔喘羔盂・名提出の昭和30年5月27日付準備書面、被審人農林中金の当委員会に対する昭和30年7月15日付報告書、前記査第42号証、前記査第75号証、前記査第52号証、前記査第86号証、弁甲第9号証(昭和30年3月24日付下湧別村芭露農業協同組合より農林中金札幌支所あて文書)、弁甲第11号証の(一)(昭和30年1月14日付農林中金札幌支所より本所審査部長あて「北海道における乳牛導入資金について」と題する文書)、同号証の(二)(昭和30年2月8日付農林中金審査部長より札幌支所長あて「乳牛導入資金について回答」と題する文書)、弁丙第6号証(昭和30年3月8日改正雪印乳業昭和28年―30年度の乳牛増殖乳量増産対策要綱)、弁丁第3号証(昭和30年2月18日改正北海通バター昭和28年―30年度の乳牛増殖乳量増産対策要綱)、領第11号証の一ないし三(農林中金札幌支所制定の昭和30年度乳牛購入資金貸出取扱要領、念証)、領第12号証の一(農林省農林経済局長から農林中金あて昭和30年10月27日付「乳牛導入資金について」と題する文書)、領第12号証の二(農林省農林経済局長から北海道知事あて昭和30年10月27日付「乳牛導入資金について」と題する文書)により、いずれもこれを認めることができる。



法の適用
第一、一、前記事実第一の一および第二の一ないし三によれば、
被審人雪印乳業、同北海道バターは協同して被審人農林中金および同北信連と完全なる了解の下に、3ヵ年間に約10億円の資金を両会社に生産乳を供給する農家に融通させて両会社の集乳地区に約1万頭の乳牛を導入し、本資金によつて乳牛を購入した者の当該乳牛のみならずその保証人ならびに資金借受単協自体についてまで販路を制限し、それら生産乳はすべて両会社のみに販売せしめるという計画をたててこれを実行し、他の乳業者の集乳活動を抑圧し、特にいわゆる競争地区においては本資金を他の乳業者に対する強力な競争手段として利用し、農林中金に他の地区に比し厚く本資金を融通させ、他の乳業者の集乳活動を排除し、もつてすでに北海道地域において集乳量約80パーセントに及ぶ両会社の地位の全面的維持および強化をはかつているものと認められるから、両社の行為は私的独占禁止法第3条前段に違反する。
二、前記第一の二および第二の一ないし三の事実によれば、
被審人農林中金は、雪印乳業、北海道パターのいずれかに原乳を供給する単協またはその組合員にのみ乳牛導入資金を融資し、他の乳業者と取引する単協等に対しては取引先が両会社でないという以外格別の理由なく乳牛導入資金の供給を拒否しているものと認められ、右すなわち特定事業者に不当に資金を供給しないもので、私的独占禁止法第2条第7項に基き昭和28年公正取引委員会告示第11号により指定された不公正取引方法(以下一般指定という。)の一に該当し、また、
各単協に乳牛導入資金を融資するに当り、右資金を借り入れた各単協、組合員およびその保証人についても、それらの生産または販売する原乳を必ず両会社に販売することを条件としているのは、正当な理由がないのに相手方と当該相手方から物資の供給を受ける者との取引を拘束する条件をつけて当該相手方と取引しているもので、一般指定の八に該当し、
いずれも私的独占禁止法第19条に違反する。
三、前記第一の二および第二の一ないし三の事実によれば、
被審人北信連は、本件融資に当り、正当な理由がないのに、金融機関の業務として単協に保証を与えるに際し、両会社との取引を条件としているものであつて、一般指定の八に該当し、私的独占禁止法第19条に違反する。
第二、被審人らの主張を要約すると、
一、「要綱」の目的は審判開始決定書記載のごとく両会社の経営合理化にあるのではなく、乳牛の増殖による酪農経営の安定を図るとともに地域的に散漫な乳牛導入を防止して単位経営当りの乳牛密度と地域的集乳密度とを高め集乳経費の軽減に努めることにあり、このことは両会社の特殊な性格および「要綱」の成立経緯を検討すれば明らかであるというのであるが、「要綱」がその成立過程において管内酪農民の乳牛導入希望をも取り入れて立案され、したがつてそれが一面に管内酪農家の経営安定を図る目的をもつていたことは、これを認めることができる。しかしながら、この酪農経営の安定が会社の経営合理化と表裏の関係にあることは参考人昌谷孝らの証言するとおりであり、また地域的に散漫な乳牛導入を防止して単位経営当りの乳牛密度を高め集乳費の軽減に努めることが、それ自体会社の経営合理化につながるものであることは明らかである。もつとも両会社が会社の経営合理化を計ること自体は別に問題ではなく、問題となるのは、この「要綱」が実施されるに当つて、被審人らが互に意を合わせてこの「要綱」による融資を北海道における各乳業会社の集乳事業の競争を制限する手段に用いた点にある。
二、しかるに右農林中金、北信連と両会社との通謀の点について、農林中金は両会社が作成した「要綱」案の提示をうけて道内乳牛増殖対策に沿うものとしてこれを了承したもので積極的にその作成に参画したものではなく両者間に通謀の事実は全く存しないというが、
「要綱」の作成または改正は両会社と農林中金、北信連との間に常に緊密な連絡協議の間に進められたことは前記諸証拠により明らかであり、しかも「要綱」の実施に当つては、前記認定事実のごとく農林中金、北信連と両会社とは一体となつて行動し、乳牛導入資金をもつぱら両会社地区のみに導入することにつとめ、さらにいわゆる競争地区において同資金を明らかに両会社のため他の乳業者の競争を排除する手段として利用しているのであつて、これらの点からみれば両会社と農林中金、北信連との間に本資金をもつぱら両会社地区のみに導入し他の乳業者と取引する者へは本資金の融資を行わないものとの了解が成立していたものと認めざるを得ない。
三、さらに、農林中金および北信連は本件融資に当り、審判開始決定書記載のごとく各単協の信用状態よりもむしろ両会社との取引関係に重点をおき、もつぱら両会社と取引している単協に対して融資するという方針をとつたことはなく、各単協の経営状態、信用状態およびいわゆる系統利用(生産乳を農家から単協へ、さらに北経連へ販売すること)等を勘案して融資決定をしてきたものであり、個々の単協が融資を拒絶された理由は主としてその信用状態のいかんによつたものであるとし、その例証として、両会社と取引する単協でも融資を拒まれたものがある事実をあげているが、
両会社と取引するものとしからざるものとの別なく、農林中金が単協の信用状態の良否を考慮したであろうことは、公共の金融機関として当然なことであり、あえてこれを否定しないが、前記上湧別町農業協同組合のごとく、同一単協でも雪印乳業地区の分はすみやかに融資が実行され、その他の分については長期間保留された例があり、また同一単協で一旦拒否された後数月をいでずして融資を許可されたものが数例あり、一方農林中金が当初両会社以外の乳業者と取引する単協に対して一貫して融資不許可の態度を採つていたことを見れば、信用状態のいかんによつて融資を行つたというのは弁解に過ぎないものと言わざるを得ない。
また、農林中金が本件融資の当初から北経連への委託販売をも融資基準の一として考慮してきたとする点については、前記のように農林中金の音更村農業協同組合に対する昭和28年10月27日付融資決定通知書に「組合員の生産牛乳はあげて系統会社である雪印乳業へ出荷するよう強力な御指導を願いたい」との付記がなされ、また同じく湧別町芭露農業協同組合に対する同年11月14日付融資決定通知書に「本資金は雪印乳業の申添えもあり貴地区内の乳牛事情に鑑みお取計い申上げますが、対象地区内牛乳はあげて会社に出荷するよう恒久的な指導対策を講じて下さい」との付記がなされていること、また北信連が昭和29年度の融資保証に当り農林中金、両会社と協議の後各単協あてに出した昭和29年7月30日付文書においても両会社への販売ということが強調され、北経連への販売委託ということについて何も触れていないこと、さらに三井農林大鋓侘せ・判蠶垢・赦・8年10月10日農林中金札幌支所黒田次長と会見した際、同次長から三井農林が原料乳または製品の面において雪印乳業と提携すれば三井農林取引関係者に対する乳牛導入資金の融資を考慮しないこともない旨いわれたこと等からみれば、農林中金は融資に際し北経連への販売委託ということでなく両会社への販売を主として考慮していたものと認めざるを得ず、代理人らの主張を首肯することはできない。
なお、被審人らは、北海道における単協と両会社との生産乳の取引方式としてすべて単協は組合員の生産乳を北販連(現在は北経連)に販売委託し、北販連はその委託によつて両会社に生産乳を販売する方式をとつておると主張し、この証拠として昭和25年11月に両会社が北販連と締結した団体協約書の写(弁甲第1号証および同第2号証)および昭和27年8月に訓子府町、妹背牛町、八雲町、池田町および富川各農業協同組合が、昭和28年5月に天塩酪農業協同組合が、それぞれ北販連に差し入れた牛乳販売契約委任書の写(弁甲第3号証)を提出している。
しかしながら訓子府町農業協同組合は昭和25年北海道バターの発足以来北販連を経由することなく同社と直接取引していたが、昭和27年8月に至り北海道バター社長名で関係単協に対し、
乳代は前年4月より手形払いとしたにつき、その裏書割引一切の手続きを北販連に依頼し、同連に乳代の取立を委任していない組合についても北販連の厚意ある取計により支障なく送金することができたが、過般北販連が農林省の監査を受けた際右の取扱いが非合法的なることを指摘され、じ後この便法中止方の申出があり一時乳代支払の方法に窮し、5、6両月は北信連の厚意により辛じて支払うことを得た、その後種々関係先とも折衝の結果、従前に返り北販連に依頼することに了解決定をみたが、前述の農林省の監査に対処する事務上の書類整備上別紙の通り委任書を必要とするから手数ながら至急提出されたく、現行の1000分の0.75の手数料は同社が負担し単協には迷惑をかけない
旨の文書がきたので同月前記のごとき牛乳販売契約委任書を北販連に提出したものである。
なお、雪印乳業も同年6月同様の文書を関係単協に送付しており前記妹背牛町等の各農業協同組合の委任書提出の事情も訓子府町の場合と同様である。(領第3号証、領第4号証、査第81号証)また天塩酪農業協同組合は、元来北販連でなく北海道酪農業協同組合連合会を経由して乳代を受けとつていたが昭和28年5月同連合会が同組合の乳代取立を北販連に委任したのでその後北販連のもとめに応じ前記の委任書を提出したものである。したがつて前記諸証拠をもつてしては両会社と取引している単協はすべて前記のいわゆる系統利用を行つていたものとは認定できない。(査第82号証、査第83号証、査第84号証、査第85号証)
四、次に農林中金は、乳牛導入資金を単協に融資するに当り、両会社の保証を条件としたことはなく、まして両会社へ生産乳を販売することを条件としたことはないと主張するのであるが、
農林中金が昭和28年度の乳牛導入資金融資150数件総額3億円余を単協の信用状態のいかんに関係なく全部両会社の保証の下に行う(査第8号証)とともに、両会社以外の乳業者による保証ないし、保証の肩替りは全てこれを拒否し、昭和29年度も同様の方針で融資手続を進めたことをみれば、農林中金が両会社の保証を条件として融資を行つたことは明らかであり、さらに農林中金は、両会社および北信連が単協に出した生産乳を両会社に販売すべき旨の保証条件について、前記認定事実のとおり充分了解し(単協が会社に差し入れる念書の写を農林中金は資金借入申請の時の必要添付書類としている。)、また昭和29年6月改訂した念書には生産乳を両会社以外の乳業者に販売した場合農林中金も繰上償還を要求しうる旨の規定が加わつているから、農林中金は、両会社への生産乳販売を条件として融資したというべきであり、被審人らの主張は事実に反するものである。
なお両会社が保証する上において生産乳を両会社に販売すべき旨を条件とすることは、両会社が借り入れ単協のために保証をなす以上当然の要求であり、またその保証人としての地位の安全を計るためにも当然なさるべき措置であるというが、
たとえ両会社の利益確保のためこのような保証条件をつける必要があるとしても、この保証条件を手段として農林中金が生産乳の両会社への販売を融資の条件としていることは前述のとおりでそこに何ら正当な理由を見出しえないのである。
五、また前記「要綱」は両会社により立案され、国の綜合計画の一環として道庁の承認をうけ、農林中金および北信連に通報されて実施されたものであり、一方両会社以外の乳業会社は何ら積極的に計画もたてず、その取引先の単協に漫然融資の申込をさせたにすぎないのであるから農林中金もしくは北信連がこれらに対する融資について幾分その取扱を異にしたとしてもそれは当然の事柄であるというが、
その「要綱」なるものも国全体の綜合計画の立場から立案されたものでもなく、一方上記のとおり両会社以外の乳業会社にあつては具体的計画の段階に至らぬまでに農林中金から拒否の態度を示されていたのであるから、他の乳業者としては自己と取引ある単協は結局融資を受けられぬものと判断することは当然のことであつて、被審人らの抗弁には理由がない。
六、なお、本件に現われた事例によつても、両会社以外の乳業者は、昭和28年以降集乳量が増加しているのであるから道内原乳取引分野の競争は実質的に制限されておらず公正に行われてきているというが、
「要綱」による三ヵ年計画は、両会社の管内に搾乳牛または妊娠牛約1万頭を導入せんとするものであつて、しかもその導入先は、北海道が乳牛の生産地であるため、道内に限られており、当時の全道の搾乳牛の総数が約4万5000頭であつたことを思えばこの計画はきわめて規模の大きいものであり、しかも融資対象農民は搾乳牛1頭以上を保有していなければならずかつ昭和29年度の「要綱」改正により融資をうけたならば借受人の所有にかかる乳牛全部からの生産乳ばかりでなく保証人および単協までその生産しまたは取り扱う生乳はすべて両会社に販売しなくてはならないことになつており、またその違約に対する措置もきびしいため融資に伴う拘束もまたきわめて深くかつ広いもので、これにより生産乳販売活動は強く制限されるものといわねばならない。さらに本導入資金は農林中金によつてほとんど一手に貸し出され、両会社以外の乳業者の地区には貸し出されないのみならず、両会社の競争手段として競争地区に厚く貸し出されているのであるからその拘束力は単協の生産乳販売活動を支配し、乳業者間の乳価および集乳上その他のサービスによる公正な競争を有効に抑圧することができるものと判断される。
両会社以外の乳業者の集乳量が増加しているのは、両会社以外の地区の単協にあつては、当初農林中金資金が借りられないのみならず本件差別融資の結果隣接両会社地区に導入資金が融資されたため地区内乳牛が両会社地区に買われて行くような事態さえ起つたので、この乳牛の移動を防止するため取引先乳業者に融資を要望し、また乳業者も自己の集乳量を維持するためこれら単協に自己資金を導入資金として融資したこと、また28年度の酪農ブームのため乳量の自然増もきわめて顕著であつたこと(昭和29年度には当時の金融および経済事情から再び前年度のような防衛のための資金投入は他の乳業者においてもほとんどできない状態にあると認められる。)によるのほか、たまたまこのころから資金の融資方針そのものについて国会始め各方面からの批判がおき、当委員会の審査、審判の手続も開始されたため昭和30年初めごろから差別的取扱は緩和され、両会社地区以外にも農林中金資金による乳牛の導入が除々に行われるに至つたこと等(明治乳業帯広工場では宝乳業株式会社の業務引継によつて乳量が増加したことが認められる。)によるものと判断される。
なお、乳牛導入資金の融資が公正に行われなかつたため、三井農林斜里工場のように新たに開設された両会社以外の他社の工場の集乳量が予定量に達せず経営が困難をきわめたことが認められる。
以上のような理由から両会社以外の特定の会社の乳量が増加していることのみをもつて他の乳業者の集乳活動が制限されることなく道内生産乳の取引分野の競争が公正に行われたと認めることはできない。
第三、以上のほか被審人らは、「被審人両会社の要綱に決定書記載のような変遷があり、独禁法違反の疑惑を深めた観がないでもないが、疑惑の原因とも観られる手続は、昭和30年初頭以降においてすべてこれを解消させたものであり」、「特に昭和30年度の融資については、農林省農林経済局長の新通牒もあり、農林中金としては、これに副う取扱方針を定めているのであつて、これらの取扱方針は、特殊金融機関としての農林中金の独自の立場から立案したもので、独禁法違反の疑を挿まれる余地のないものである。」というのであるが、
たしかに農林中金らは、前記認定事実のとおり、昭和30年初め以降融資についての差別的取扱を改善し、更に昭和30年度以降の融資については、農林中金の「昭和30年度乳牛購入資金貸出取扱要領」が厳に昭和30年10月27日付農林省農林経済局長の通達の趣旨に従つて実施されるならば差別的および拘束的取扱はなくなるであろうが、これが履行の完全な保障はなく、またしかも昭和28年度および29年度の融資の実情ならびに両会社と農林中金および北信連との密接な関係等にかえりみるときは、将来同様の違反が行われるおそれがないということを得ないので主文第1項ないし第3項の措置を命じ、昭和28年度および29年度の融資に関して資金借受単協およびその組合員から両会社に差し入れあるいはその写が農林中金に差し出されている念書がその後、破棄しまたは修正され、これら単協および組合員は現在では生産乳の取引を拘束されていないと認めるには証拠が不十分であるので、主文第4項および第5項の措置を命ずるものである。
なお、審決案の主文中には被審人北海道バターに当時同社の取締役社長であつた三井武光を同社の役員の地位または北信連の役員の地位のいずれかから退かせることを命ずる旨の一項がある。
北信連のごとく農民の死活を制するともいうべき各種農業資金の貸出を左右する力を有する機関の幹部が北海道バターの首脳者を兼ねていたことは、たまたま前掲事実第二の二(二)の末尾のごとく乳業会社が金融機関の威力をかりて原料乳供給者が自己の競争者と取引することを阻止することにより両会社の独占を強化するような行為の契機ともなりかつ本件事実の全過程を通じ農民の協同組織である北信連の勢力が特定会社の利益のために不当に利用されたことは疑がない。しかしながら、本年6月18日付当委員会あて北海道バター上申書によれば、同社は5月30日すでに自発的に三井武光を代表取締役の地位から去らせているから本審決においては格別の措置を命じない。

昭和31年7月28日



別紙一の一
昭和28-30年度の乳牛増殖、乳量増産対策要綱 雪印乳業株式会社
一、目的
1、酪農経営の安定線、採算基準は現況から判断すれば最低搾乳牛2頭以上(年間搾乳量50石以上)育成牛1頭、産犢1頭、計4頭と考えられるので之を目標として酪農経営の安定と乳牛の絶対数増加に努める。
2、乳牛の管外移出を極力防止すると共に乳牛の新規導入は既存工場を中心とし、工場周辺の飼育密度を高める様創意工夫を凝らし、地域的に散漫な乳牛導入を極力防止し、単位経営当り乳牛密度と地域的集乳密度を高め集乳経費の軽減に努める。
二、対策
此の目的を達成するために道、支庁、市町村、各関係団体に対し協力を願い、地域内乳牛の減少防止を図り、乳牛導入に対しては左記要領により斡旋に努力する。
単協自体で政府の利子補給による借入れを受けることのできない場合は会社は左記条件を以つて乳代見返により保証し、融資斡旋を行うことがある。此の導入頭数は2,500頭程度とする。

(イ) この保証融資を受けるものは農協、酪協若しくは之に代る団体とし、別掲念書の各条項の確守を必要とする。
(ロ) 会社は二ヵ年を限り年3分の割合で利子補給を行う。
(ハ) 融資保証額は購入価格の七割限度とし、1頭当り10万円を超えないものとする。
(ニ) 導入頭数は1集乳区域当り10頭以上を原則とし、会社が適当と認めた地帯とする。
(ホ) 購入牛は搾乳牛若しくは妊娠牛とす。
(ヘ) 資金の返済方法は据置期間六ヵ月を含め三ヵ年々賦とするも借入者個人の実情に於いて年限を画一的に取扱わず短縮する場合もある。(三〇ヵ月以内の月割均等償還)
但し会社の利子補給は二ヵ年とする。
(ト) 会社の信用保証により資金を借入れ乳牛を購入したる者は借入資金の返済が完了する迄は、その生産したる牛乳を会社に販売する事を確約する。
(チ) 借入金の返済については借受団体及び借受人の連帯責任とし、且つ家畜保険に加入し、保険証券は原則として農林中金にて保管する。
(リ) 乳牛購入資金を借受けんとするものは次の条件を具備するものとする。
(1) 現に搾乳牛1頭以上を有し、関係機関竝びに会社が適当と認めたもの
(2) 粗飼料の準備、特に多汁性飼料の生産が1頭当り千貫以上可能なもの
(3) 現に適当な尿溜を有し、又は施設せんとするもの
借受者にして導入牛を加えたる妊娠牛又は搾乳牛頭数の現存しない場合には爾後の利子補給は即時停止する。
以上
別紙一の二
念書
今般貴社の保証により畜牛購入資金を当組合理事会の決議に基き農林中央金庫より借用いたしますにつきましては、左記条項は固く厳守し違背致しません。
万一違背せる場合は貴社が農林中央金庫に対する保証債務の履行上必要なる措置の執行に対しては一切異議を申しません。
茲に後日の為理事会の決議録抄本を添へ念書を提出致します。

一、各自の経営規模に応じ適正な乳牛飼養頭数を保有し、之れに必要な設備並に飼料の自給策を積極的に購じ酪農経営の安定に努力せしめる。
二、貴社の乳牛増殖、乳量増産対策要綱の各条項を厳守する。
若し購入資金を乳牛購入以外の目的に使用したる時、其の金額又は1部の返還要求ありたる場合は異議なく之れに応ずる。
三、借入金償還は貴社に於て当組合の毎月乳代より年賦金の月割額を前月乳代より一括控除し、北海道信用農業協同組合連合会「以下信連と謂ふ」に積立方を委任する。
四、貴社に於て当組合乳代より一括控除せる積立金の個人別計算及び資金操作は当組合に於て行ふ。
五、据置利子の支払は定期償還期日の当組合前月分乳代から貴社が控除し信連に支払ふ事を委任する。
六、貴社が信連より期日前繰上償還要求せられたる場合は当組合は直ちに之れに応ずる。
七、本資金により購入したる乳牛の不測の災害に備へ家畜共済規定による最高額の保険に加入し保険証券は債権者に預託する。
八、乳牛を購入したる場合は其都度貴社工場長に報告し相違無き事の確認を求める。
尚購入後に於て斃死其他事故発生したる節は直ちに報告する。
九、貴社が当組合に代り、信連の請求により債務を弁済せられたる時は、当組合はその弁済金額及之に対する弁済日当日より貴社に現入金の日迄百円に付き1日4銭の割合による損害金を支払する。
昭和28年8月 日
雪印乳業株式会社
取締役社長 佐藤 貢殿
別紙二の一
昭和28年―昭和30年度の乳牛増殖、乳量増産対策要綱
北海道バター株式会社
一、目的
1、本道に於ける酪農経営の現況から判断すれば、その安定線、採算基準は最低搾乳牛2頭以上(年間搾乳量50石以上)育成牛1頭、産犢1頭、計4頭以上と考えられるので、之を目標として、乳牛の増殖を計り酪農経営の安定に努める。
2、採算基準頭数に至るまでは、乳牛の管外移出を防止するとともに、乳牛の新規導入は既存工場を中心として、工場周辺の飼育密度を高めるよう創意工夫を凝らし、地域的に散漫な乳牛導入を極力防止し、単位経営当り乳牛密度と、地域的集乳密度を高め、集乳費の軽減に努める。
二、対策
此の目的を達成するために、道・支庁・市・町・村・各関係団体に対し協力を願い地域内乳牛の減少防止を計り、乳牛の導入に対しては左記要領により斡施に努力する。
政府融資による畜牛購入を行なわんとするものに対しては、乳牛の鑑定照会はもとより各方面に亘り積極的に協力する。
会社は左記条件に依り単協自体で政府の利子補給による融資又はその他の乳牛導入資金の借入を受けることの出来ない単協に対し乳代見返りに依る融資を保証斡旋する外政府の利子補給によらざる乳牛導入資金に対する利子の補給を行う。
但し、会社の利子補給による導入頭数は850頭程度とする。
(イ) この保証融資を受けるものは単協若しくは之に代る団体とし別掲念書の各条項の確守を必要とする。
(ロ) 会社の行う利子補給は年3分とし二ケ年に限る。
但し、金利の個人負担が政府補給の場合を下廻る時は個人負担7分5厘を限度とし利子補給を行う。
(ハ) 融資保証額は購入価格の七割を限度とし、1頭当10万円を超えないものとする。
(ニ) 導入頭数は1集乳区当り、10頭以上を原則とし会社が適当と認めた地帯とする。
(ホ) 購入牛は搾乳牛若しくは妊娠牛とする。
(ヘ) 資金の返済方法は据置期間六ケ月を含め三ケ年以内とする。
(ト) 借入金の返済については、借受団体及び借受人の連帯責任とし、且つ家畜保険に加入し保険証券は債権者又は会社で保管する。
(チ) 乳牛購入資金を借受けんとするものは、次の条件を具備するものとする。
(1) 現に搾乳牛1頭以上を有し、関係機関並に会社が適当と認めたもの。
(2) 基礎飼料の準備、特に多汁性飼料の生産が1頭当千貫以上可能なもの。
(3) 現に適当な尿溜を有し、又施設せんとするもの。
(リ) 借受者にして導乳牛を加えた妊娠牛又は搾乳牛頭数が現存しない場合は、爾後の利子補給は即時停止する。
別紙二の二
収入印紙 念書
今般貴社の保証により畜牛購入資金を別紙証書の通り農林中央金庫より借用致しましたに就而当組合理事会の決議に基き貴社の行う乳牛増殖乳量増産対策に協力し左記条項は固く厳守し万一違背せる場合は貴社が農林中央金庫に対する保証債務履行上必要なる一切の措置に異議なき事を●に後日の為理事会議事録抄本を添え念書を提出いたします。

一、各自の経営規模に適正な乳牛飼養頭数を保有し之れに必要な設備並びに飼料の自給策を積極的に講じ酪農経営の安定に努力せしめる。
二、貴社の乳牛増殖乳量増産対策要綱の各条項を厳守する。
三、借入金償還は貴社に於て各人月割積立額を当組合の毎月乳代より一括控除し、北海道信用農業協同組合連合会(以下「信連」と言う)に積立を委任する。
四、貴社に於て当組合乳代より一括控除せる積立金の個人別計算は当組合に於て支払う。
五、据置利子の支払は定期償還期の当組合前月分乳代より貴社に於て控除し「信連」に支払うことを委任する。
六、貴社が「信連」より期日前繰上償還を要求せられたる場合は当組合は直ちに之れに応ずる。
七、本資金により購入したる乳牛の不測の災害に備へ家畜共済規程による最高額の保険に加入し、保険証券は に預託する。
八、本資金により乳牛を購入したる場合は其都度貴社工場長に報告し相違なきことの確認を求める。
昭和 年 月 日
住所
××××農業協同組合
組合長理事 氏 名印
住所
理事 連 名印
住所
借受人 連 名印
北海道バター株式会社
社長 三井 武光殿
〔参考〕
昭和29年(判)第4号
審判開始決定書
札幌市苗穂町36番地
被審人 雪印乳業株式会社
右代表者取締役社長 佐藤 貢
ほか 三名
右の者らに対する昭和22年法律第54号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下私的独占禁止法という。)違反被疑事件につき審判手続を開始する。
第一、事実
一 被審人雪印乳業株式会社(以下雪印乳業という。)および被審人北海道バター株式会社(以下北海道バターという。)は、それぞれ肩書地に本店を置き、牛乳の処理ならびに乳製品の製造および販売業務その他を営み、北海道における集乳量の同地区における全生産乳量に対する割合は前者が50数%、後者が20数%を占めるものであり、被審人農林中央金庫(以下農林中金という。)は、肩書地に主たる事業所を置き、農林漁業関係の所属団体に対する金融を行うことを主たる業務とし、現に北海道における乳牛導入資金の融資に関しては独占的地位を占めるものであり、かつ雪印乳業の株式の約4%ならびに北海道バターの株式の約2%を所有し、また両会社に対し多額の非所属団体融資を行っているものであり、被審人北海道信用農業協同組合連合会(以下北信連という。)は、肩書地に主たる事務所を置き、会員に対する金融業務を行っているものであるところ、
二 農林中金は昭和28年春、雪印乳業および北海道バターの申出に応じ、両会社合せて三ヵ年間に乳牛約1万頭を導入しもって両会社の集乳面における経営合理化を計ることを主要目的として両会社がそれぞれ作成した「昭和28―30年度の乳牛増殖、乳量増産対策要網」(以下「要綱」という。)に基き、昭和28年8月以降各単位農業協同組合(以下単協という。)に乳牛導入資金を融資するに当り、各単協の信用状態よりむしろ両会社との取引関係に重点を置き、もっぱら両会社と取引している単協に対して両会社の保証を条件として融資を行い、もって他の乳業者の融資あっせんないし保証を事実上拒否してきたが、その後右資金借受単協の組合員にして両会社以外の乳業者と取引するものが出てきたので斯る取引を排除するため雪印乳業では同社保証により右資金を借り入れた各単協に対して昭和29年4月19日付社長名文書をもって右資金借受組合員にして生産乳他社供給者に雪印乳業復帰を求めることを要請したところ、たとえば北海道勇払郡由仁町酪農業協同組合では該当者12名中4名が復帰し、同郡追分町農業協同組合では該当者3名中1名が融資金を同組合に返還することとなったのであるが、昭和29年度においては更に単協ならびにその組合員が両会社以外の乳業者と取引することを防止して取引先を両会社に限定するためこれを融資条件の中に織り込むこととし、昭和29年7月ごろ両会社は農林中金および北信連と協議して(一)資金借受組合員の生産乳は全て保証会社に販売させること、(二)単協から保証会社に差し入れさせる念書に生産乳の会社販売に違反した場合には繰上償還させることを規定すること、(三)北信連は以上の条件を保証条件とすること等を決定し、更にこの線に沿って両会社は「要綱」に「会社の信用保証により資金を借入れ乳牛を購入したる者は借入資金の返済が完了するまでは借入により購入した乳牛の分のみならずその人の経営内における生産牛乳全量(自家消費を除く)を会社に販売することを確約する」との規定を加え、また「要綱」に基いて単協が保証会社に差し入れる念書に「若し当組合が貴社の承諾を得ずして第三者と牛乳の取引契約をなし、若しくはこの資金により乳牛を購入した組合員及び保証人が貴社の承諾を得ずして第三者に牛乳を販売したる時、債権者若しくは貴社より其の全額又は1部の返還要求ありたる場合は異議なく之に応ずる。」旨を追加規定し、北信連は、昭和29年度の融資保証に当り、単協あて文書において「本資金の借入農家及び保証人はその経営内における生産牛乳を組合へ、組合は会社へ販売することが保証条件」である旨を記載しここに農林中金および北信連と両会社との間に完全な了解が成立するに至るとともに昭和29年度の融資は現にかかる了解のもとにおいて行われている。
三、昭和25年7月過度経済力集中排除法(昭和22年法律第207号)の決定指令により森永乳業株式会社遠軽工場(北海道紋別郡遠軽町所在)と生産乳に関する取引を開始するに至った上湧別町農業協同組合、湧別町芭露農業協同組合、下湧別村湧別農業協同組合、遠軽町農業協協同組合、佐呂間町農業協同組合、上佐呂間農業協同組合、若佐村農業協同組合、先田原農業協同組合、安国農業協同組合、白滝村農業協同組合および丸瀬布町農業協同組合は昭和28年11月ごろから農林中金に対して総額3603万円の乳牛導入資金の借入申請書行い、そのため数回にわたって、農林中金札幌支所と交渉を重ねたが、乳牛導入資金は農家のためというよりは雪印乳業および北海道バターの経営合理化のために貸出されているのであるから、両会社以外の地区に対する貸出は行わないという趣旨の下に右申請は事実上拒否されて今日に及んでいる。
四、更に北海道庁が道知事決栽のもとに昭和28年度有畜農家創設特別措置法(昭和28年法律第260号)に基く家畜導入資金の各単協別仮割当を昭和28年5月ごろ行い、その各単協の信用状態につきあらかじめ農林中金と協議したところ、農林中金は北海道檜山郡今金町酪農業協同組合につき同組合が、(一)昭和27年度に株式会社北海道銀行から農林漁業金融公庫の資金470万円を借り入れていること、(二)その製品であるバターを森永乳業株式会社に販売して雪印乳業には販売していないこと、(三)その生産乳を明治乳業株式会社に販売していることを理由として昭和28年度分の融資については、これを拒否すべしとの意を示したため、道庁は農林中金の資金による同組合への割当予定の30頭分を削除するに至り、その結果同組合は農林中金から右資金を借入れることができなかった。
第二、法の適用
一、前記第一の一ないし四の事実によれば、雪印乳業および北海道バターは共同して農林中金および北信連と通謀し、両会社以外の乳業者の集乳活動を排除することにより、北海道における原乳取引分野の競争を実質的に制限しているものであって、私的独占禁止法第3条前段に違反するものであり、
二、前記第一の一および二の事実によれば、農林中金ならびに北信連はいずれも正当な理由がないのに単協と単協から物資その他の経済上の利益の供給を受ける者との取引を拘束する条件をつけて当該単協と取引しているものであって、私的独占禁止法第2条第7項に基き昭和28年公正取引委員会告示第11号により指定した不公正取引方法の8に該当し、同法第19条に違反するものであり、
三、前記第一の一、三および四の事実によれば、農林中金は前記各単協に対して不当に乳牛導入資金を供給しないものであって前記告示第11号により指定した不公正取引方法の1に該当し、同法第19条に違反するものである。
昭和29年11月22日
公正取引委員会
委員長 横田 正俊
委員 蘆野 弘
委員 高野 善一郎
委員 山本 茂
委員 吉田 晴二

補充決定書
昭和29年判第4号審判開始決定書4頁8行目「なったのであ」の次に左の通り插入する。
「り、北海道バターならびに農林中金では昭和29年5、6月頃北海道常呂郡訓子府町農業協同組合に対して同組合が森永乳業株式会社と取引する場合には乳牛導入資金のみならず営農資金、冷害資金等の融資についても影響あるべき旨を示唆し、もって同組合の生産乳取引等に多大の紛糾をもたらしたのである。」
昭和29年12月24日
公正取引委員会
委員長 横田 正俊
委員 蘆野 弘
委員 高野 善一郎
委員 山本 茂
委員 吉田 晴二

 


 

 


2022年12月23日