ゼミ研究発表討論会2024のテーマ紹介

 11月18日(月)に開催されるゼミ研究発表討論会2024では、テーマおよび関連する背景事情について簡潔にご紹介します。
 皆さんも「GAFAM」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。これは、世界のテクノロジー業界で圧倒的な市場支配力を持つGoogle、Apple、Facebook(Meta)など大手5社を指す造語です。

 

 


 今回の討論会では、「GAFAM」の「G」、Googleに対してアメリカ司法省が主導する分割訴訟を題材とし、同社の企業分割の是非について討論します。もしこの分割が実現すれば、数十兆円規模の経済に影響を及ぼし、日本を含む全世界にも波及する出来事となるでしょう。

 

(画像はそれぞれANNニュース〔https://youtu.be/3cmy1-39mhs〕とテレ東BIZ〔https://youtu.be/y3KSD5K36Z4〕のニュース報道より引用したものです。)


 企業分割は、競争法における最も強力な措置です。
 競争法の歴史が長いアメリカでは、これまでにも巨大な鉄道会社、石油会社、電気通信会社などが分割を命じられたケースがあり、Microsoftも2000年頃には分割寸前まで行きましたが、和解に達しました。


企業分割の判断と変遷
 企業分割の判断基準は、学説の風潮や政治的な思惑によって変遷してきました。例えば、市場構造を重視する「ハーバード学派」が主流だった時代には、競争の確保のために多くの企業が分割されました。しかし、構造よりも企業行動の規制を重視する「シカゴ学派」が台頭してからは、企業分割の訴訟は徐々に減少しました。今回のGoogleに対する企業分割訴訟も、競争の創出に企業分割を有効とする「新ブランダイス学派」の影響を受けているとされています。

 また、企業分割訴訟の行方は、時の政権が国際的な競争秩序を優先するか、それとも自国企業の支配的競争力を重視するかといった政治的判断にも左右される傾向があります。このように、企業分割の結論には、正解があるわけではなく、その時代の背景に強く影響されるテーマであると言えるでしょう。


アメリカ司法省がGoogleを分割しようとする理由
 では、なぜアメリカ司法省がGoogleに対して分割を求めているのでしょうか。司法省が問題視しているGoogleの行為を次のように挙げます。

(画像は日本経済新聞電子版「米当局がGoogle分割案 デジタル時代の独占解決難しく」2024年8月15日記事より引用)


■Android端末メーカーに対する制約
 Googleは、Android端末メーカーにGoogleのアプリ(Search、Chromeなど)をプリインストールさせることを必須条件に、Google Playストアの使用を許可しています。更に、自社以外の検索サービスをプリインストールさせないという排他的な契約も強いています。

■Appleとのデフォルト検索エンジン契約
 Googleは、iPhoneやSafariでのデフォルト検索エンジンとして「Google」を設定するためにAppleと長期契約を結んでいます。

■他のブラウザでの優遇措置の購入
 Firefoxなど他のブラウザにおいても、Googleは検索エンジンの優遇措置を購入し、独占状態を維持しようとしています。

■検索結果での優先表示
 Googleは自社やパートナー企業のサービスを検索結果で優先的に表示し、競合他社を不利な立場に追い込んでいます(2010年代から欧州委員会もこの点を問題視しています)。

 


 これらの行為は、アメリカ国内だけでなく日本を含む世界各地で行われており、日本国内でも独禁法の調査対象となっています。
 例えば、GoogleがYahooに検索エンジンや広告技術を提供していたにもかかわらず、広告収益を独占する目的でYahooの検索広告配信(モバイル・シンジケーション取引)を意図的に妨害したため、日本の公正取引委員会による調査を受け、2024年に自主改善措置の確約計画を提出しました(2024年4月22日認定)。

(公取委公報資料)


 さらに、日本の公正取引委員会も、「Google Search」(検索アプリ)や「Google Chrome」(ブラウザアプリ)をAndroid端末に抱き合わせで搭載させることを前提条件に「Google Play」(アプリストア)を利用させるといった違反行為について調査を進めています。

(画像は日テレNEWS NNNのニュース報道〔https://youtu.be/fL25NRTrzaw〕より引用したものです)

(公取委公報資料)


Google分割の行く末
 Google分割の背景には、googleの「検索市場での独占が⼈⼯知能(AI)分野の独占にもつながりかねない」ため、「国家を超える影響⼒を持つまでに肥⼤化したテック企業へ厳しい措置を求める姿勢を鮮明に」しなければならいという危機感も一因です(括弧内の記述は、日本経済新聞電子版「Google分割視野 ⽶当局『国家超え企業』肥⼤化を抑⽌」2024年10月9日記事より引用)。
 企業分割以外の手段ではGoogleの支配力を抑えることはできないのでしょうか。例えば、抱き合わせ行為を禁止し、Android端末メーカーに取引条件の選択自由を保障する措置も考えられますが、しかし、これによって競争がどの程度回復されるかは未知数です。
 Microsoftに対する過去の競争法訴訟を振り返ると、同社は分割を免れた結果、パソコンOS市場において依然として独占状態を維持し、Officeアプリケーション市場においても独占的地位を形成しています。そのため、ユーザーは、今なお、学業や仕事のために高額なライセンス料を支払わざるをえない状況にあります。こうした過去の反省から、アメリカ司法省がGoogle分割を決意したかもしれません。


 

一方で、企業分割には懸念も多くあります。例えば、分割により企業の技術開発や革新へのインセンティブが損なわれるのではないかという不安や、分割以外の有効な代替措置が存在するのではないかという議論もあります。このように、企業分割は常に賛否両論を呼ぶテーマであり、唯一の答えがあるわけではありません。

 

あなたの立場は?
 Googleに対する企業分割について、皆さんは賛成でしょうか?それとも反対でしょうか?討論会で両チームの議論を聞き、陪審員としてあなたの立場を評決で示してみませんか?

 

 

 

2024年11月11日